DXニュース第23回は「MAU率は81%! ご近所付き合いを革新する“入居者限定アプリ”」を取り上げて解説します。今回のプレゼンターは、国内外のリテールテックを10年以上見続けてきた株式会社DearOne CEOの河野さん。
それでは、はじめましょう!
「情報交換」「お譲り」「お助け」ができるマンション入居者限定アプリが話題!
三石所長(当時。以下、三石) 今月の1本目は「MAU率は81%! ご近所付き合いを革新する“入居者限定アプリ”」ですね!先日のアプリ研究会でも少し話題に上がりました。
河野恭久さん(以下、河野) そうなんです! 東京都板橋区の分譲マンション「アトラス加賀」に初めて導入された、このマンションの入居者だけが使用できるアプリ「GOKINJO(ゴキンジョ)」を紹介します。
三石 なるほど。このアプリにはどういう機能が備わっているのでしょうか?
河野 機能は大きく分けて、「情報交換」「お譲り」「お助け」の3つがあります。要は、入居者同士がコミュニケーションをするアプリですね。
このアプリのアイデアの発端はカナダにあった地域限定SNSだそうで、その地域の掲示板が活発だったため、アプリ化してみようと乗り出したようです。
三石 カナダのSNSから生まれたとは凄いですね!
◆これまでにGOKINJOアプリを介して行われたこと
・無農薬野菜共同購入
・入居者間でのモノのやりとり
・トークンによる共助、シェアリングエコノミーの活性化
・地域飲食店のお得クーポンの発行と入居者による利用
・入居者間での情報交換(フォーラム、メッセージ機能)
・マンション居室スペースのお手入れ・お役立ち情報のアプリでの発信
・メンテナンス情報等のマンションに関するお知らせのアプリ内での発信
(「Gokinjo」アプリプレスリリースより引用)
河野 ユニークですよね。機能をそれぞれ見ていくと、情報交換は「アスレチックのある公園を教えてください」など子育てをしている親であれば知りたい情報から、「不動産取得税の家屋に関する通知は届いたけど土地に関する通知は届かなかった」など他の入居者も悩みを抱くようなことまで、幅広く情報交換がされています。
三石 確かに便利そうですね。地元のニッチすぎる情報は一般のSNSでは得られないでしょうし。
河野 「お譲り」はその名の通り、ハンガー、小物、家具などを譲り合うもので、1年間で69件が出品されて、85%は譲り先まで決まったそうです。特に多かったのがオモチャ、絵本、育児用品だったと。
三石 それいいですね。子どもって超ハイスピードで育っていくので、どんどん不要になっていくものが増えていくんですよ。同じマンション内の必要とする人に譲っていけたら嬉しいですね。
河野 お互い助かるから最高ですよね! 3つ目の「お助け」は、「赤ちゃんを短時間見てほしい」などの育児のほかに、電動ドライバー、お食い初めの椅子などの貸し借りも行われているそうです。
さらに、そこから発展して「一緒にこの商品を共同購入しませんか」と“共同購入”の提案まで行われているそうです。ここまでは運営側も想定していなかったらしいですよ!
三石 確かに、たとえば車や家の窓を洗うケルヒャーとか「ちょっと必要だけどそんなに使わない! でも欲しい!」というものってありますよね。入居者同士で共同購入するのはいいアイディアですね。
コミュニティにありがちな炎上を回避すると「自分たちの資産価値を高めること」に繋がる!?
河野 そうですよね。このGOKINJO記事で面白かったのは「自浄作用で炎上を回避した」というところでした。
三石 どういうことでしょうか?
河野 前提として、このアプリにユーザー登録する場合はマンションの部屋番号と実名を入れて、運営側が入居者リストと照合して認証する、という仕組みになっているんですね。
ただ、その後のアプリを使う際は“実名”と“匿名(ニックネーム)”を使い分けられて、お譲りやお助けは部屋番号がわからなければ実施できないので実名、情報交換は匿名になっています。
三石 なるほど、必要以上に実名を出すのは怖いですもんね! よく設計されてますねぇ。
河野 はい、ただそうなると、匿名の情報交換のほうでは「共用パーティールーム使用時のマナーが悪い」、「泥だらけの子どもがエントランスを汚した」など、ネガティブなもの投稿がたくさん出てきてしまいました。
三石 あー、ありそう……! 放っておいたら2ちゃんねる化してしまいそうなイメージがあります。
河野 そうなんです。ここからが面白くて、ある入居者から「同じマンションに住むご縁もあり、みんなで子育てをする環境をつくりたいですね」とポジティブにもっていく投稿が出たところ、みんながそっちに動いて、最終的には良い雰囲気になったそうです。
三石 その1つの投稿だけで劇的に変わったんですか? 良いことだけど、なんでそれだけでそこまで変わったんでしょうね?
河野 その理由が僕は好きなんですけど、要は「自分達の資産価値をみんなで高めていきましょう」ということです。分譲マンションの購入者は数千万円の買い物をした運命共同体ですから、修繕などもしながら自分達の資産価値をキープしていかなければなりません。
「あのマンションの内部掲示板は荒れている」となると外部からの評価、つまり資産価値が減る可能性があるから、自浄作用が働いて良い方向にもっていけたそうです!
三石 なるほど! 資産価値の観点とは面白いですね。
河野 これはかなり新しいサービスモデルだし、ちょっとした気づきでこういうビジネスが生まれるなと感じました。
さらに言うと、アプリのさらなる可能性を示唆する事例で、僕らは販促やロイヤルティマーケティングを中心に行っていますが、そうではないアプリの使い方があるなとよくわかりました。
三石 そうですね。
河野 僕らはアプリのエキスパートとしてやっているので、こういうところに自分達でも気づいて、新たなアプリビジネスに展開できたらいいな、と思いました。記事からは以上です。
入居者限定アプリが、マンションデベロッパーのブランディングを向上させる可能性も!
三石 ありがとうございます! この「GOKINJO(ゴキンジョ)」というアプリは先進的な取り組みでありながら、古くからのコミュニティという要素を組み合わせたアプリですね。
河野 そうですよね、昔から近所のコミュニティ自体はありますもんね。以前は、マンションの回覧板と言えばプリントを挟んで回していました。あれが不要になって、アプリで一斉にみんなに回せるようになったイメージですね。生活が便利になって、凄くいいなと。
三石 僕が面白いと思ったのは、今後、マンション選びのときにこのアプリがマンションデベロッパーのブランドの付帯サービスとして紐づくと、購入、指名のされ方が変わってくると思いました。
河野 完璧です、三石さん! この記事のマンションデベロッパーは旭化成不動産レジデンスなんですが、まさに水平展開を狙っていて、アプリを導入する2棟目のマンションも決まったそうです。
つまり、アプリがあること自体がそのマンションのブランディングになっている。マンションを売る時の武器の1つになっているんです。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
今後は「マンション入居者限定アプリ」があることが、マンションデベロッパーのブランディングを向上させる可能性がある。
三石 なりますよね! 単に「家に住む」という物理的な側面だけじゃなく、「コミュニティに帰属する」ことの恩恵をサービスとしてプライオリティを上げていくところは、そのデベロッパーならではの価値になるなと感じました。
あと、僕がいいなと思ったのは、「お譲り」のシェアリングエコノミーの考え方。
河野 お譲り、いいですよね!
三石 先日洗車のために悩んだ挙句、新品だと高いからメルカリでケルヒャーを買ったんですよ。最近は新品の使い心地に関心がなくなっているのでメルカリをよく使うようになっていて。だから、この「お譲り」は本当にいいなと。一緒のマンションに暮らしていて、必要なものをすぐに渡せるみたいな環境っていいですよね。
河野 本当にいいですよね。この活動はSDGsでもあるんですよ。お譲りがなかったらそのまま捨ててるかもしれない。日本は家がどこも狭くて、そんなに使わないものを置いておくところもないから。
三石 倉庫に入らなくて、奥さんに怒られるとかあるじゃないですか(笑)。
河野 間違いない(笑)。今はレンタルスペースが増えていて、売上も伸びているそうですよ。このアプリはそこに一石を投じている部分もありますね。
厳密な認証が必要なコミュニティは、LINEよりもアプリのほうが適している!
三石 コミュニティの情報共有レベルだと「LINEでいい」という話もありますが、今回のように、厳密に認証に紐づく必要があるものはアプリのほうがいいですよね。
河野 そう思います。同じマンションの住民だからといって、LINEは交換したくないですよね。だからこそこういうアプリが生きてくる。僕もほしいです。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
コミュニケーションツールと言えばLINEという現状でも、「入居者限定」など認証が必要な場合はアプリのほうが適している。
三石 居住に関わるところのアプリ化って他でも進んでいて、たとえばセコムもアプリをはじめていますよね。他にもGoogleが防犯カメラを出しているし、居住系のアプリやデバイスは拡大フェーズにあるような気がします。
Google ストア – Pixel、Chromecast など store.google.com
河野 それで言うと、今、弊社DearOneは品川地区のエリアアプリを担当していて、今年、α版を出す予定です。今回紹介したアプリの機能と類似したものの他に、クリーニング屋との連携機能なども入れていく予定です。
三石 それはいいですね!
河野 自分のマンションにもほしいです(笑)。あと、これはぜひ弊社として、こういったクローズドなコミュニティスペース用のアプリをつくるべきだなと!
三石 この前のアプリ研究会でもおっしゃってましたね!
河野 はい。別にマンションでないコミュニティでもよくて、そのコミュニティ専用に機能を練っていけば、今回のGOKINJOのように使われるものになるんじゃないかと感じました。
三石 今後、DearOneからも出てくるかもしれない。楽しみですね。今回も興味深いニュースをありがとうございました!
―――次回の【DXニュース】で取り上げるニュースも、河野さんが解説していきます。お楽しみに!