DXニュース第22回は、前回に引き続き「『表示が0.1秒遅れると、売上が1%減少する』絶対王者アマゾンがやっている”すごすぎるデータ分析”」の記事を取り上げて解説します。今回のプレゼンターは、国内外のリテールテックを10年以上見続けてきた株式会社DearOne CEOの河野さんです。それでは、はじめましょう!
Amazonが成長を続けるために大切にしている3要素
河野 早速ですが、この記事で紹介されている「Amazonが成長を続けるために大切にしている3要素」が下記の3つです。
「Amazonが成長を続けるために大切にしている3要素」
①APIは全世界公開を前提として設計する
②ID活用・標準を徹底させる
③行動に基づく受益者へのフィードバック
これだけでも感動するんですけど、順番に追って解説していきますね!
①APIは全世界公開を前提として設計する
三石 きたー! 途中でコメントしたかったんですけど、これですよね!
河野 はい、それに伴い2002年に「Bezos Mandate」というベゾスがチームに義務化させたルールが5つあります。それがこちら。
「社内外向けを問わず、必要なデータや機能へのアクセスに必ずAPIを用意する」
「チーム間のコミュニケーションは、API」
「APIに使う技術は規定しない」
「そのAPIは、全世界公開することを前提として設計しておくこと」
「例外はない」
三石 いいですね、最高です。
河野 本当に最高だなと。これを2002年から徹底したことが、今現在、Amazonがここまでビジネスの成長を加速させた原動力です。これは感動して震えましたね。
三石 本当に素晴らしい。
②ID活用・標準を徹底させる
河野 続いて3要素の2つ目は「ID活用・標準を徹底させる」。これは僕は知らなかったんですが、今は簡単にできるAmazonのマーケットプレイスへの参加って、昔は店舗側の登録作業が手間だったそうです。
それでもサプライヤーがAmazonに登録したのは、その手間を超える利便性があったからです。たとえば、日本だとJANコードなどの家電製品のIDを入力すると、同様の商品を売っているサプライヤーが誰で、どの地域にどれぐらいいて、どれぐらい売れているかが見えると。
三石 そんなデータまで見られるんですか!
河野 はい、これだけでここに出品する価値がありますよね。さらにコードを入れると、DVDデッキだったら類似商品の売上、それがどのような商品とセットで売れているか、といった情報も提供しています。
三石 改めて凄いですね!
河野 なので、データの情報が得られるだけでも、Amazonにお店を開くモチベーションになるんですって。サプライヤーにとってAmazonが提供しているビジネス機会は、売れ筋商品と類似した商品の出品提案ができる、海外への出品が容易、販売状況と在庫数の確認と提案もできる。僕も知らなかったんですが FBA(Fulfillment by Amazon)というのがあって、在庫が足りなくなると判断した場合は提案してくれるそうです。
三石 Amazonのほうから売れ行き予測でアラートを出してくれるんですね。
河野 凄いですよね。在庫保管、発送、返品、返金まで全部が仕組みになっていて、掲載した商品が相場とあまりに乖離した価格設定だった場合、売れないことが事前にわかり、そうなるとサプライヤーは出品を諦めるか、価格を下げてライバルと戦うかのいずれかの選択をすると。
三石 サプライヤー同士が競争する環境になっている。
河野 その通りです。そして品質も価格も相場からズレているサプライヤーは自然淘汰されると。いやー、とんでもないなと。
三石 本当に凄い!
河野 さらにAmazonのUIの話で、同じ商品を販売している一覧が出て、必然的に同じ商品を売っているサプライヤー同士が同じページ上でライバルになる仕組みになっていますよね。価格だけでなく、販売実績、レビュー、配送までの日数も表示されて、評価の高いサプライヤーがトップに表示されます。トップに表示されたサプライヤーは他のサプライヤーよりも売上が数倍から数十倍変わるらしいので、そうするとサプライヤーは表示トップを得るために安くするだけではなく、評価を高める必要があります。めちゃくちゃ理に適っていて、その一番の成功事例としてAnkerが挙げられています。
三石 確かにAnker、いっぱい買いましたよ。
③行動に基づく受益者へのフィードバック
河野 3つ目の要素は「行動に基づく受益者へのフィードバック」です。要は、データを出店者に返してあげるという話です。このデータが揃うと何が起きるか。マーケティングをAmazonが引き受けてくれる形になり、サプライヤーとしては売れ筋商品をスピーディに仕入れたり、相場にマッチした価格で販売する本業に集中できます。
河野 Amazonが物流までやってくれるので、小売事業者は注力すべき業務に自社の資源を集中することができるというメリットがあります。また、Amazonはデータ活用を自分達でも行っていて、UIUXをよくするためにしょっちゅうABテストをやっているそうです。Amazonが売り出したレコメンデーション機能は有名で、開発したグレッグ・リンデンさんはABテストを繰り返した結果、興味深い法則を発見したそうです。
三石 なんだろう、気になりますね?
河野 それがこのタイトルにもなっている、「0.1秒表示が遅れると、売上が1%下がる」という法則で、グラフがあります。
河野 この法則により、単にECが注文できるプラットフォームではなく、ユーザーの我慢の限界値に応えることが大事と発見され、また、Amazonを訪れたユーザーは「より多くの商品をスピーディに見たい。レコメンデーションやレビューなどの体験も、より多く、同じくスピーディに体験したい」と考えていることがデータで示されたと。これが記事の最終的な結論でした。
三石 なるほど、素晴らしい!
河野 ということで、勉強になる示唆だらけの記事で、僕らもこれを参考にすべきだなと。今後、新規事業もバンバン生み出していきたいし、新規事業を考えるときに、前段にあった好循環を生み出すビジネススキームもそうだし、APIの全世界標準などもね。
プラットフォームか、オウンドメディアか?
三石 ありがとうございます。Amazonは日本の一番弱いところを全部突いてきてるというか、完全にコンプリートしてますよね。僕らも社内でよく「標準化」と言いますが、Amazonは世界最高頂点に到達している標準化ですよね。みんな「時代はAPIだ」と、概念ではわかっている人が増えてますが、AmazonはAPIの重要性をここまでの定義で明快に徹底している。しかも最後の「例外はない」が最高ですよね。標準化の極みです。
河野 最高ですよ。標準化の一番重要なところですよ。「例外はない」。
三石 日本はすぐに俺達独自の何とかシステムとかつくっちゃったりして、こういうあたりのマインドセットが違いますよね。
河野 本当にそう思いました。ベゾス凄いと。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
Amazonは標準化の極みであり、お手本。独自のシステムをつくろうとする日本とはマインドセットが異なる。
三石 今後はAmazonの究極標準化で最高のダッシュボードもある至れり尽くせりのプラットフォームに乗っかっていくか、またはShopifyのような波に乗ったオウンドメディアでやるか――。プラットフォームが競合化したら大変みたいな話もあって、これは答えがありませんが、どうなっていくか注目ですね。
河野 私はハイブリッドだと思ってまして、両方持つんだと思っています。なぜかというと、オウンドメディアは自分のお客様のデータしか取れませんが、Amazonみたいなプラットフォームに乗ると、自分の店以外でどういう風に購買行動が行われているかを知ることができますよね。そこのデータは手放せないと思うんです。
だからオウンドメディアを立ち上げたとしても、そのデータを得るためにAmazonには出店し続けるはずで、Amazonはそれでいいはずです。
三石 確かに。それで言うと、ZOZOTOWNも一時期ZOZO離れが起きながらも、結局また戻るみたいな話が出てますよね。河野さんがおっしゃった、自分でやるものと、他人のふんどしとのせめぎ合いで、自分でやっていって、ABテスト、学習しながら変えていくということかなと思いますね。
河野 そう思います。違いはデータの質だと思います。自分で閉じているよりは、データ提供してくれるんだったらZOZOTOWNに載せたほうがいいと思うんですけどね。
三石 そうですね。Amazonの出店状況、競合状況がわかっちゃうのも、今までは自力で競合出店調査を調査会社に頼んでいたものが、プラットフォームとして機能として搭載されているなんて凄いですよね。最高です。
河野 たまにテレビで、隙間産業でこんな変な商品つくって大儲けしてます、みたいな特集をやってますけど、ああいう人達ってもしかしたらAmazonで調べて「ここ穴場だ。ここ世界で売れてるけど日本で売れてない」と見つけて、商品化しているのかもしれないなと思いましたね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
企業はAmazonなどのプラットフォームとオウンドメディアの両方を駆使して、検証を繰り返しながら、ベストの形を模索し続けることが必要。
日本はメタバースに好機あり!?
三石 それにしても、Amazonのエコシステムのプラットフォームが強すぎるじゃないですか。GAFAMが。一握りの強い奴らにみんなぶら下がるようになっちゃうから。
河野 ここどうしますかね、日本は。
三石 どうなっていくんですかね。日本は思考が停止していて「俺達ならではの強みを深掘りするんだ」みたいになって、完全にファイティングポーズは取らないですよね。
河野 そうですね。日本は技術と製造に強みがあった国なので、たとえばメタバースってまた1つのパラダイムシフトだから、メタバースを機に技術に強い日本みたいなのが復活できたらいいなと思うんですけどね。
三石 メタバース、いいですね!
河野 たとえばメタバースのプラットフォームそのものをつくっちゃうとか。まさに「どうぶつの森」がそうなわけじゃないですか。ああいうのを活かした世界的に使われるプラットフォームをつくるか、あるいはどのメタバースでも使える技術的な何かを誰か生み出してほしいなと。
三石 そういえば、この前、凄い話を聞いたんですよ。メタバースでBtoB、SaaSの営業トークスクリプトを標準化してAIで持たせておくことで、メタバースで商談したほうが普通の人間が商談するよりも受注確率が良いとなりはじめているらしいです。
河野 それは凄いですね!
三石 要するにオンラインでアバターが勝手に営業してるんですよ。だから人を雇わなくてよくて。
河野 それ、めちゃくちゃ理にかなっていますね。中国のニュース番組って全部ロボットなんですよ。AIで、ホログラムで人の写真を表示してるだけだから絶対に読み間違えないんですよ。抑揚がつけられるから、見てる側は人間かどうか判断つかず、絶対間違えないから人間がニュースキャスターやるよりいいという。うーん、アバター営業、いいですね。
三石 それでちょっとかわいい系とか、仕草とかで癒されて発注しちゃうんですよ。そのほうが無駄な往復がなくて、的確な答えで効率的になって。Amazonの標準化も突き詰めると、勝手に注文もしないでも届くようになっていくんだろうなと。そんなEC聞いたことあるんですよね。
河野 本当にそうですよ。一定の閾値を越えたら出品とかのプログラムを組んでおけば全部自動でできちゃうから。
三石 いやー、今回も示唆に富んだ良い記事でしたね。ありがとうございました!
≪三石所長(当時)`s Memo≫
これからますます盛り上がっていくメタバースの世界共通のプラットフォーム、技術を開発するチャンスが、「どうぶつの森」などを既に開発・提供している日本にはある。その機を逃さず、世界で勝負。
―――次回の【DXニュース】で取り上げるニュースも、河野さんが解説していきます。お楽しみに!