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「売らない店」で儲けるためマルイや大丸などの百貨店が挑戦するDX化【DXニュース】vol.20

2022.03.24

今回のプレゼンターは、国内外のリテールテックを10年以上見続けてきた株式会社DearOne CEOの河野さん。DXニュース第20回はマルイ・西武…百貨店がD2Cブランドと挑む『売らない店』が成功する条件を取り上げて解説します。それでは、はじめましょう!

百貨店が売り場の3割を「売らない店」に!?

売らない店

三石所長(当時。以下、三石) 「DXニュース」第20回です! ニュースプレゼンターは、前回に引き続き、リテールテックを10年以上見続けてきたCEOの河野さんです!

河野恭久さん(以下、河野) よろしくお願いします!

三石 今月の1本目は、「マルイ・西武…百貨店がD2Cブランドと挑む『売らない店』が成功する条件」ですね!

河野 はい、最近は「売らない店」と呼ばれる売り場が増えているそうです。今回も、僕なりの視点から「注目ポイント」をまとめてみましたので、ご覧ください。

売らない店ニュースまとめ

河野 売らない店の中でも特に目立つのが、マルイや大丸といった百貨店が展開している体験型のスペースで、出店者の多くはD2C(Direct to Consumer)ブランド、スタートアップが多いそうです。気になるのが「なぜ百貨店が売らない店に注力するか」ですよね。

三石 気になりますね。

河野 それがこの3つの理由です。

・長いコロナの影響

・実施を余儀なくされた営業時間短縮

・業績悪化

つまり、コロナで業績が悪化したので何かしら手を打たないといけないというわけです。驚くべきはその下のところで、丸井グループは2026年3月期までに「売らないテナント」を売り場面積の3割まで引き上げると方針を発表していることです。

三石 売り場面積の3割も! 凄いですね。

河野 百貨店はそこの売上で成り立っているのに、3割を売らないテナントにしちゃうそうです。僕も思い切った戦略だなと思いました。単純に商品を羅列するだけでなく、既にオーダースーツ「FABRIC TOKYO」やパーソナライズシャンプー「MEDULLA」などが入り、スーツの採寸やヘアカウンセリングをその現場で提供しているそうです。ただし、原則として店頭での物販は行わず、購買はECサイトという仕組みになっています。

三石 え⁉ でも、マルイさんなどの百貨店は入っている店舗の売上の一部が収入になるビジネスモデルですよね? そこで買われなかったらマルイさんには収入が入らなくなりませんか!?

「売らない店」を出す百貨店のメリット

河野恭久

河野 三石さんのおっしゃる通りで、その場で売らない、購入されないので、マルイさんには売上の一部が入りません。ただし、そのかわりに、決済をマルイの自社ブランドのエポスカードにすることで金融事業の収益を上げていくことを狙っているそうです。これは自社で金融事業をもっているマルイならではかもしれませんね。

三石 なるほど!

河野 百貨店にとって売らないメリットのまとめです。
1つは「収益機会の創出」。今言った金融事業のところですね。2つ目が「店舗での顧客データの取得」で、店舗における顧客データをカード情報と紐づけて販促することと、出店者、テナント側にデータを還元して商品開発に役立てること。3つ目は「話題性による集客効果」。現にD2Cブランドの出店が記事になっていて、さらにZ世代も取り込めるかも、というメリットがありそうです。

売らない店ニュースまとめ2

河野 一方でD2Cブランド側のメリットとしては、1つが百貨店に出店することによる売上。2つ目が従来のデジタルマーケティングではリーチできなかった新しい顧客層にブランド認知してもらう。

三石 確かにそれはそうですよね。D2Cが今までリーチできなかった実店舗に来る層にリーチできるんですから。

河野 はい、そして3つ目が既存顧客にとって新しい顧客体験を提供する。もともとECで買ってくれるような人達に対しても、買う前にモノに触れる、サイズが測れる、という体験を提供できることによってブランドへの共感度を高めてもらうのがD2C側の狙いです。それをカスタマージャーニーからひも解いた図がこちらです。

カスタマージャーニーから紐解く

河野 顧客がブランドの情報に触れる接点をタッチポイントと言いますが、オンラインオフライン含めてたくさんあり「売らない店」がそのタッチポイントの1つでもある、というお話です。

三石 うんうん。

河野 カスタマージャーニーのゴールは各タッチポイントを顧客視点で最適化して顧客の体験価値を固めること、としています。つまり、購買がゴールではなくブランド認知度、共感度が高まることで将来の購買に繋がったり、顧客自身に購買体験がなくてもブランドを好きになって推奨者になってくれたりすれば、それ自体でブランドにとっては成果があったと言えると。

売らない店ニュースまとめ3

デジタルよりもリアルのコストが安くなっている!?

リアル店舗

河野 ちなみに、国内市場をターゲットにしたD2C販売では10~30億に達すると、初期のターゲットは刈り取ったという壁に直面するらしいです。ですがリアルの場に進出することで、それまでにリーチできなかった層に接点がもてます。

三石 なるほど。

河野 そして最後のところ、2年ほど前からデジタルマーケティングによる新規顧客獲得コストが高騰している――これは我々も経験している通りですね。その結果、D2Cブランドの多くがデジタルのみに閉じずに、相対的に安くなったリアル店舗も利用すると。

つまり、昔はリアル店舗のほうがコストは高かったのですが、今はリアルのほうが安くなっているから、そこで顧客コスト、獲得コストを抑制しようというわけですね。これは僕も気づきませんでした。

三石 これは凄いですね。衝撃ですね。

河野 最後にまとめです。僕はこれ感動したんですけど、「デジタルよりもリアルのほうが顧客の五感に訴えられるぶん、リッチな顧客体験を提供できる」と僕も思いますが、なんと、デジタルマーケティングに特化してきたD2Cスタートアップからすると「逆」と。

売らない店ニュースまとめ4

河野 リアルのほうが難しいと。その理由はなるほど!なんですけど、自社サイトに来てくれたらよそ見しないけど、実店舗に行った客はキョロキョロして、自分のブランド以外のものも視野に入っちゃうと。

三石 あー、面白いですね!

河野 次がこれまた強烈で、オンラインの顧客接点では顧客の属性や購買履歴をふまえて、要するにパーソナライズした状態で接客できますが、リアルの売り場では目の前の顧客が誰か全くわからない――新規か既存か、購買履歴も一切わからない状態でコミュニケーションを取るからオンラインのほうがよっぽど簡単だと。

三石 なるほど。

河野 さらに、オンラインではチャットやSNSで双方向コミュニケーションができますが、リアルの現場では、お客さんとの距離を詰めるのにそもそも時間がかかると。なのでオンラインのタッチポイントはリアルに比べて表現の自由度は落ちるけど、1人ひとりの顧客とじっくりコミュニケーションが取れると。

三石 うーん、面白いですね。

河野 記事では最後に「売らない店」の「課題」を提示していて、僕らもこういう場面に直面しているからなるほど感があるのですが、百貨店のような伝統企業とスタートアップの意思決定のスピードの違いがあると。

売らない店ニュースまとめ5

三石 どこかで聞いたことあるような話ですね……。

河野 そう。週単位でスピーディに仮説検証を回しているD2Cブランド。一方、百貨店は年単位、早くてもクオーター単位で売り場の戦略を考えていると。
D2Cブランドは当然、週単位でデータを観ながらお店のレイアウト、接客の仕方を変えたいわけじゃないですか。それを百貨店側は四半期に一度しか買えられないと。とんでもない差ですね。これが今後の課題として注目したい、という記事でした。

カード手数料で売上は増えるのか?ヒントはカード決済連動型オファー

河野恭久2

三石 面白いですね。ありがとうございます。色々考えることが多くて、ずっとブレストできますね。グループワークで研修とかする時の議題にいいかも(笑)。

河野 そう! これは語り合えるテーマなんですよ!

三石 河野さんがよく引き合いに出される三河屋さんや百貨店の外商みたいなファンクションの話で、リアルの良さは目利きで、データドリブンじゃなくバイヤーを信頼しているという。

河野 まさに。

三石 データドリブンだと偏っちゃうから、いつも青が好きな人は青ばっかり買っちゃったりして。そういうところを外商、目利き、店頭の人がセレンディピティを提供することの価値がよく言われますよね。アメリカでもずいぶん前に店が在庫をもたないショールーミングで、限られた人しか行けない新規スタートアップができたと聞きましたけど、それに考え方が近いと思いました。

河野 近いですね。

三石 今回の記事でマルイさんの収入のところで意外だったのが「売らない店」のビジネスモデルの売上はエポスカード、金融の手数料収入ということでしたけど、そんなに儲からない気がするんですけど、どうなんですかね?

河野 僕もこれは「本当に儲かるの?」と懐疑的でした。これは完全に僕の予想ですが、おそらくD2Cのサイトに行って決済するときにエポスカードだと何%お得など、インセンティブを与えているはずですよね。そうじゃないとエポスカードが選ばれないですから。

三石 そういうことか。単純にクレジットカードの手数料収入とか、数%ではなく、まとまった収入が手数料として入るということですかね?

河野 いえ、実際は数%で、薄利多売だと思います。

三石 そうすると、あれだけ一等地で回収できるのかが謎ですね。さらに思ったのは、データを取って、顧客行動でユーザーのライフスタイルを知ろうと。これもボリュームが限定的と思っちゃいますね。会員基盤が数千万レベルのキャリア、プラットフォーマーの場合は行動データとしてはユーザーの興味関心を補足するのに一定のボリュームがありますが、どこまで消費者の興味関心フラグをビジネスに使っていく上で有効か、量と質の観点で謎ですね。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

プラットフォーマーに比べて獲得できるデータの量が多くない百貨店の「データ分析」が、どれほどの価値提供になるか、今後注目。

河野 これも予想ですが、カード情報、要するにマルイエポスカードなので、マルイの百貨店内どこで買い物をしてもそのデータ全部もっているので、それをD2Cテナントに「おたくの商品を買ったときはどこのショップの商品も一緒に買ってるよ」とデータを渡したりするのかなと。それだったら価値があるかもしれませんね。

三石 あ、そういうことですね。昔、アメリカでカードリンクトオファー、CLO(カード決済連動型オファー)ってありましたよね。それもカード決済情報に基づいて。

河野 そう、あれです。あれのカードだけじゃなく、リアルの店舗の情報も含めると。これは本当に可能性あると思いました。

売上が1990年の半分!?百貨店が挑戦するブランドの再構築

河野さん&三石所長(当時)

三石 この間、Growth Meetupのフェローに入っていただいてる人の中の1人で、BOARDWALKとPEACSという会社を経営している半田勝彦さんに話を聞いたんです。かつて「趣味雑誌の王」と呼ばれていた枻出版社の事業から選りすぐりのサーフィンやアウトドアの専門誌だけを残して、新たな法人PEACSをつくり、デジタル時代に戦って勝てるようにしていこうというチャレンジされているんですね。

河野 はい。

三石 そのときの話でよかったのがブランドの話です。生活者がコンシューマー化し、一緒につくっていくことで沼化に誘い、裾野を広げていくミーハー化というテーマもあり、これらプロシューマ―化、ミーハー化、沼化のバランスをどうチャレンジしていくか、という話で。

そこにブランドがちゃんと確立していけると、トータルのライフスタイル提案ができて、たとえばサーフィンに行った後に温泉に寄って、ホテルに泊ったらいいと、トータル提案もできる。つまり、ブランドが重要だよねと。

河野 はい。

三石 これは百貨店とも繋がる話で、ユーザーが千円でTシャツを買うだけだとそうなっていかないけど、マルイさんなどの百貨店はトータルの提案をして、ブランドとして強くなっていくというイメージなのかなと。ただ、そのときにデジタルは弱いから、D2Cと組んでブランドをつくり直すのかなと思いました。

≪三石所長(当時)`s Memo≫

百貨店はトータルでライフスタイルを提案できるブランドの再構築に挑戦している。

河野 まさにそうですね。百貨店も死活問題で、今までは百貨店そのものがブランドみたいなところがありました。だから生き残るにはD2Cテナント、ショールーム化するのは1つありなのかなと。ただ、三石さんがツッコんでくれた通り、マネタイズポイントとしては弱いと思うので、もうちょっと考えないといけないでしょうね。

三石 今日か昨日、新聞に「百貨店の売上が1990年のときから2分の1になった」と報道されていました。売上が半分になるって凄いですよね。人口も減っているし。その中でも今回の記事で、リアル店舗のほうがインターネットよりも効率がいいという話は衝撃的でした。

河野 びっくりですよね、これ。ちなみに、「売らない店」はアメリカでは既に成功事例が出たから、それで真似してるみたいですね。

三石 なるほど。一回成功事例をつくったら早いかもしれないですね。今回もありがとうございました!

―――次回の【DXニュース】で取り上げるニュースも、河野さんが解説していきます。お楽しみに!