今回のプレゼンターは、国内外のリテールテックを10年以上見続けてきた株式会社DearOne CEOの河野さん。DXニュース第18回は、「米ナイキがD2Cシフト メタバースから需要予測まで」を取り上げて解説します。それでは、はじめましょう!
D2Cの割合が急上昇。2025年には50%以上に
三石所長(当時。以下、三石) 「DXニュース」第18回です! ニュースプレゼンターは、前回に引き続き、リテールテックを10年以上見続けてきたCEOの河野さんです!
河野恭久さん(以下、河野) よろしくお願いします!
三石 今月の1本目は、「米ナイキがD2Cシフト メタバースから需要予測まで」ですね!
河野 はい。早速、スライドの1枚目をご覧ください。
河野 ナイキ社の「D2C売上占有率」、つまり、ナイキブランドの売上全体に占めるD2Cの売上高の割合は、10年前は16%しかなかったものが、去年2021年は39%に上昇し、さらに2025年には50%以上になるだろうと予想されています。
(※編集部注・D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、メーカー直接販売のことです)
三石 凄い、それは衝撃的ですね!
河野 そうなんですよ。だから、卸や小売りの中間業者がどんどん減っていって、ナイキブランドが直接、消費者に商品を提供するように時代がシフトしているんです。この記事は改めてD2Cについて深堀りをしてくれていて非常に参考になりました。まずはD2Cへのシフトとその手法ですね。
三石 ナイキのD2Cの手法、気になります。
顧客との繋がりを深めるためにエコシステムを構築
河野 記事によると、ナイキはより一貫した体験を提供して顧客との繋がりを深めることをD2Cの目的としているため、卸業者から自前への道を進んでいる、ということでした。その手法は非常に単純で、まずはテクノロジーのエコシステムを構築することです。
三石 なるほど。
河野 具体的には、テクノロジーや物流にちゃんと投資していて、データ分析のコンテンツ作成に精通したスタートアップを買収しているんですね。僕はスタートアップ側の事業をやっているので、この先、業界がどのように再編されていくのかと考えたときに、大企業やブランドがインハウス化していく時代が来るように感じています。
三石 大企業やメジャーブランドは社内で全てやっていく時代になると。
河野 はい。実際に、D2Cでナイキにどのような効果があるのか。顧客のデータについてより深い知見をもたらし、これを顧客体験の強化に活用できるメリットがある、とナイキは言っています。そして、次のスライドには三石さんが好きそうなものが載っています。
三石 うわ、凄いですね。こんなにナイキのスタックが。
河野 そうなんです。見てみると、我々もよく知っているエンゲージメントツールのモエンゲージ(MoEngage)やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)のエムパーティクル(mParticle)の名前がありますね。ちなみにこのスタックの図には、ナイキが買収して自社でやっているものと、他社のサービスとして使っているもの、全てが含まれているそうです。
三石 なるほど。このスタックをまとめている情報元のCB Insightsは市場分析やリサーチをする会社ですよね。
河野 そうです。ただ、記事を読むと、おそらくナイキの中の人にインタビューをして、どのように使っているか、というところまで記載されていました。僕が知らないサービスもあって、ここまで使いこなしているのかと非常に参考になりましたね。ここから、さらに深堀りしていきます。
ナイキの「3つの全体戦略」と、それを支えるスタートアップの数々
河野 この記事のまとめ方も素晴らしくて、まずナイキの全体戦略を3つに分けています。①トラックマネージメント&可視化、②デジタル買い物の顧客体験、③ECの改善・強化です。
三石 ③はともかく、①と②それぞれの戦略の内容が気になりますね。
河野 解説していきます。まずは①トラックマネージメント&可視化。この中の「在庫管理&マーチャンダイジング」の領域では、ナイキはここだけのためにセレクト(Celect)というスタートアップを買収しています。続いて、「バーチャル試着」。今はみなさんお店に行って服を買う機会が減っていて、ECで買うことが増えていると思うので、試着が重要になりますよね。
三石 僕もECで買うことが増えました。
河野 そこでナイキは、3Dルック(3D LOOK)やパーフィットリー(Perfitly)などのスタートアップを買収せずに他社サービスとして活用し、バーチャル試着を実現しています。さらに、「3Dデジタルコンテンツ」の領域も、買収せずにスリーキット(ThreeKit)を使っているそうです。
三石 最先端のスタートアップがどんどん出てきていますね。
河野 まさにそうです。続いて、②デジタル買い物の顧客体験にいきます。その中の「会話型コマース」の領域。これはスマホなどのデバイス間でコマース相談するものですね。そこではドイツのチャールズ(Charles)、イギリスのブループリント(Blueprint)、アメリカのヤロ(Yalo)が使われているようです。ヤロは5000万ドルを調達しており、ナイキの他にコカ・コーラやユニリーバなどもクライアントだそうです。
三石 なるほど。
河野 「顧客データの解析」の領域は、データローグ(Datalogue)というスタートアップをナイキが買収しています――が、さまざまなソースのデータの紐づけと名寄せのためにエムパーティクルも使っていると。これは僕らも認識している通りのエムパーティクルの強みとして使っていますね。あと、僕は知らなかったんですけど、アクションIQ(ActionIQ)というサービスも使い、社内のデータをまとめて、顧客体験を個別化しているそうです。
同じ領域でもツールを複数使い分けるナイキ
河野 さらに、「マーケティングオートメーション」の領域。ここは我々の事業とかなり近しい領域で、アテンティブ・モバイル(Attentive)とクラビヨ(Klaviyo)の他に、僕らがよく知るイテラブル(Iterable)とモエンゲージ(MoEngage)が出てきました。これもナイキさんが使いこなしていると知り、ちょっとうれしい感じがしました。
三石 そうですね。イテラブルとモエンゲージは同じ発射台じゃないですか。MAツールというゾーニングの中でもナイキでは“使い分け”が走っているということなんですね。
河野 そういうことですね。そこが興味深くて、CDPのエムパーティクルも買収しているのに、他も使っています。
三石 なるほど、普通に思考すると、「1つのファンクション=1つのツール」と思いがちなんですけど、ナイキぐらい顧客体験を追究していくと、同じゾーニングで複数のツールを使い分けているんですね。日本でも、よくセールスマーケティングクラウドはキャンペーンマネジメントを使って、配信は別などありますよね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
ナイキほどに顧客体験を追究していくと「1つのファンクション=1つのツール」ではなく、複数のツールを使い分ける。
河野 そんなイメージですね。あと、これは記事に記載はなかったですけど、ナイキさんクラスだとブランドや商品の数に繋がってくるので、それによって使い分けているのかなと。
三石 なるほど、確かにそうですね。
河野 興味深かったのは、「イテラブル」は親近感を高めるために使っていて、「モエンゲージ」は解析システムと繋がり、デジタル設計、顧客行動理解のために使っていると。
三石 そうか、「モエンゲージ」は解析機能が搭載されてましたね。
メタバースの世界でナイキのスニーカーを履く時代に
河野 さらにもう少しだけ内容を紹介すると、「バーチャル店舗&メタバース」の領域では、ナイキはバーチャルのスニーカーやアパレル系を製造販売することを示唆する商標を7件出願したそうです。
三石 バーチャルでスニーカーを販売する手法ですね。
河野 はい、21年11月にはロブロックスというプラットフォーム上に「ナイキランド」をつくっていて、12月にはバーチャルスニーカーを制作するRTFKTスタジオを買収したそうです。
三石 何かのニュースで、今後はリアルのスニーカーとセットでオンラインのメタバースで履くスニーカーがセットで売られるようになるんじゃないか、というものを読みました。それを見て、メタバースのスニーカーがセットで付くといくらで、付かないといくら、という時代が来るんじゃないかと思いましたね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
今後はメタバース上のスニーカーをセットで購入することを検討する時代になる。
河野 なるほど。メタバース上の自分がナイキのスニーカーを履くわけですね。
三石 そうです。今後の話だと思うんですけど、徐々にそういう動きが見えてくるのではないかと思います。
河野 面白いですね。まだ 記事 には続きがあるので、興味のある方は改めてぜひ下記の記事を読んでみてください。この記事は非常に示唆にも富んでいるし、全体感を知るのにも有効だったので、ぜひ皆様に共有したいなと思いました。
三石 勉強になりました、ありがとうございました!
―――次回の【DXニュース】で取り上げるニュースは「ZOZOはなぜデータ分析で成果を出せるようになったのか?」。河野さんが解説していきます。お楽しみに!