今回のプレゼンターは、国内外のリテールテックを10年以上見続けてきた株式会社DearOne CEOの河野さん。「DXニュース」第16回は、「皿から10億件の情報収集 スシローが『データ活用すし屋』になっていた」と「『TikTok売れ』若者はなぜ短い動画で本を選ぶのか」の2本を取り上げて解説します。それでは、はじめましょう!
年間16億皿を提供するスシロー。データを人気計測やフードロス防止に活用
三石所長(当時。以下、三石) 「DXニュース」第16回です! ニュースプレゼンターは、前回に引き続き、リテールテックを10年以上見続けてきたCEOの河野さんです!
河野恭久さん(以下、河野) よろしくお願いします!
三石 今月の1本目は、「皿から10億件の情報収集 スシローが『データ活用すし屋』になっていた」ですね。タイトルだけで気になるニュースです。
河野 興味深いタイトルですよね。さて、まずはいつも通り、僕なりの視点から注目ポイントをまとめましたので、ご覧ください。
河野 スシローは皿にICチップを取り付けて、ネタの人気度合い、レーンにどのぐらいの時間載ったままになっているか、などをデータ化して人気計測やフードロス防止に活用しているそうです。
三石 なるほど。
河野 この記事で解説をされているのは、スシローのグループ会社で同社の情報システム管理などを手掛けるFOOD & LIFE COMPANIESの情報システム本部部長・坂口豊さんという方なんですけど、なんと今月、弊社DearOneは商談のアポがあるんですよ。
三石 凄い偶然ですね!
河野 そうなんです。そんなご縁を感じつつも記事を読み進めると、スシローは現在、国内625店舗、海外64店舗で、合計約700店舗ぐらいの寿司屋さんであり、来客数は年間1億5,700万人で、日本の人口を超える来客数。そして、年間16億皿を提供している回転寿司屋です。
三石 16億皿……。
ICチップを埋め込んでいるのは「皿」ではない⁉
河野 その皿1枚1枚に、マグロを載せたときに「マグロ」と認識させるのは実は難しいんですね。なぜかというと、皿は汎用的なデザインで、どんなネタが載るかわからないし、洗い物をしているときに分けてるわけじゃないので。では、どういう仕組みにしてるか――?
三石 皿で認識はしていないとなると、どうやっているんだろう?
河野 はい、マグロの皿の前に「マグロ」と書いてある「札」が皿に載って回っていて、ここにマグロという情報のデータが埋まっているチップが載っているんです。
(出典:ITmedia NEWS「皿から10億件の情報収集 スシローが「データ活用すし屋」になっていた」https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2112/14/news046.html)
三石 なるほど、この札なんですね。
河野 そうなんです。そして、回転レーンのコーナーに、このお店だと4カ所、それぞれICタグを認識する機械があり、マグロの札が通ったら、後に続いてくる皿がマグロだと認識しているわけです。ピックアップされるとICチップがなくなるので、何皿食べられたかもわかるという仕組みです。
三石 面白いですね!
河野 なおかつ、4カ所で計測している場合は「同じ皿が4カ所を全部通過しました」「この皿は2周目」というデータが取れますよね。そうすると、何周、何時間経過しているから、ネタの鮮度が提供に値しないと、自動でその皿が弾かれるそうです。つまり、鮮度を自動で保つ仕組みになっている。そこをしっかりデジタル化、IT化しているわけです。
三石 凄い! マクドナルドのポテトが何分以上置いておくとしなっちゃうから処理するみたいな話がありますけど、それと同じですね。
河野 そうですね。それが完全にシステムで、勝手に排除されるようになっていると。次のページを見ると、レーンのデータ、モバイルからの注文データ、さらに財務データやPOSデータを全部一元的にクラウド上で管理していると。いわゆるCDP(※顧客データ基盤)ですよね。基盤に全部入っていて。
三石 スシローのCDPは「商品が中心」なんでしょうね。
河野 これはそうですね。僕らDearOneが普段言っている「ユーザー軸のCDP」ではない、ということですね。一定のユーザーIDもあるんでしょうけど、商品メインだと思います。
DX推進において「(企業の)本業じゃない分野の人」がポイントになる
三石 なるほど、最高の事例ですね。よく物流では、ファーストリテイリングさんも記事になっていますけど、生産された商品が倉庫に格納されて、それをロボットが仕分けする、というのがありますよね。
河野 ありますね。
三石 それで在庫状況がわかって。スシローは物流と言ったら変ですけど、モノの管理、動きをITで制御する、というところが現在、生産性を高める競争においてはどんどん進化していますよね。
河野 その通りだと思います。
三石 ただ、規模がある程度大きい会社じゃないと、それが生きてこないのかなと個人的に思っていまして。
河野 確かに、ここまでやれるのはスシローさんの規模だからだろうなと。結構な投資じゃないですかね。
三石 今度、河野さんが商談で会うという、スシローの情報システム管理などを手掛けるFOOD & LIFE COMPANIESの坂口さんも、きっとバックグラウンドがITの方なんでしょうね。
河野 そうかもしれませんね。
三石 人財の面でいうと、DXを推進していくときに「本業じゃない人」が物流などを徹底的に仕上げていく、というのもポイントですよね。大企業でデジタルオタクが活躍している例でいうと、『最強のデータ分析組織―なぜ大阪ガスは成功したのか―』という本を書かれている、大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長の河本薫さんという方がいます。あそこまでもっていくのも経営の判断ですよね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
DXを推進する際に、その企業の「本業じゃない分野の人」が押し上げていくことが少なくない。1つのケースに、大阪ガスがある。
河野 ですね。その本、面白そうなので僕も読んでみます。
三石 はい、ありがとうございました。それでは、このまま2本目にいきましょう。
TikTokの影響で、数ケ月で10万部増刷
河野 はい、2本目は「『TikTok売れ』若者はなぜ短い動画で本を選ぶのか」です。
三石 「TikTok売れ」という言葉、最近よく聞きますね。
河野 「TikTok売れ」とは、TikTokのショートムービーを広告で流すことでリアルの製品が売れるというものです。今回も、僕なりの視点から注目ポイントをまとめましたので、ご覧ください。
河野 その中でも、本が「TikTok売れ」するケースが増えているそうです。特に話題になっているのが、筒井康隆さんの小説『残像に口紅を』。これまでの30年間で販売数27万部だったものが、TikTokで紹介されたことをきっかけに、わずか数カ月で10万部の増刷となったそうです。
三石 数カ月で10万部は凄いですね!
河野 『残像に口紅を』の紹介動画は2021年12月時点で890万回再生。この動画を作成したのは小説の紹介で人気のクリエイターけんごさん(@kengo_book 23才)で、「冒頭3秒間でいかに興味をもってもらえるかが一番の肝」と言っています。
三石 おー、素晴らしいですね。
河野 この小説は章が進むごとに世界から使える言葉が減っていくという内容で、けんごさんは、「もしこの世から、『あ』という言葉が消えてしまったら、どんなことが起きると思いますか?」と、数秒で本に興味を持ってもらえるよう、冒頭の語りだしには特に注意を払っているそうです。その後も31秒の動画の中で、「『あ』という言葉が消えれば、『愛』という言葉も『あなた』という言葉も使えないということです」など、ネタバレはせずに、本への興味を惹き付ける表現で伝えています。
三石 なるほど、面白いですね。
河野 さらに、けんごさんがもう1個言っているのが「TikTokは自分で再生しなくてもおすすめ機能で勝手に流れてくるので、本に興味がなかった人でも見てもらえます」ということ。そのうえで「ただ、興味がないと思われたらすぐにスクロールされてしまうので、冒頭の3秒間でいかに興味を持ってもらえるかを意識して作っています」と語っています。
三石 「海外Hot Info」でも森杉さんが以前「TikTokの魅力」について語ってくださいました。その時は「TikTokは最後まで視聴されたかどうかをアルゴリズムとしてかなり重視しているので、エンゲージメントの高い動画を作れれば、たとえフォロワーが0人であっても、十分にバズるチャンスが巡ってきます」とのことでした。
河野 なるほど。この記事ではこの現象の裏付けとして、記者が渋谷の街に行き、実際にTikTokの広告でリアルな本を買ったことがある人を探してインタビューしています。
河野 そこではまさにけんごさんの事例通りの購入の仕方をした高校1年生の女子高生が見つかりました。この女子高生に話を聞くと、「けんごさんの話し方がうまいから、あらすじが全て面白そうに感じて、実際の本編を読んでみたくなった」と。
他にも「本を読む習慣がなかったけど、TikTokを見て買った」「時間を取らずにパッと見れて内容が入ってくるから、本を買う気になった」という声もあったそうです。
TikTokがオンラインでは起こりづらかった「セレンディピティ」を生み出している
三石 ありがとうございます。これは深いですね。この「TikTok売れ」の記事のポイントは、セレンディピティ、ザッピングの要素だと思います。
河野 セレンディピティ、つまり偶発的事象ですね。
三石 はい。目的をもって検索してたどりつくのではなく、パッと見て、アイキャッチさせるセレンディピティはどういうシチュエーションで起きるかを考えると、たとえば「BEAMSに入ったらかっこいい服が目に入った」、これもセレンディピティ、偶発的ですよね。今回の事例は、それがスーパー早いスピードで、3秒でそれが生み出されるところのポイントを突いているという。
河野 その通りだと思います。基本的にセレンディピティは「オンラインでは起きづらい」ですよね。なぜかというと、オンラインは目的購買だから。一方で、リアル店舗が良かったところはセレンディピティが満載で、探していたもの以外もバンバン目に入るところが良かった。あれをTikTokはやっていると。面白いですよね。
三石 面白いですね。営業トークは3秒以上許されないとか、サイトに来ても数秒だけでその先に進んでもらえない、という悩みを多くの企業が抱えているなかで、デジタルマーケティングではABテストをして確かめていったりするのが定石だと思いますが、それをオールドメディアではなく、ユーザー可処分時間が増えているTikTokというメディアでマーケティングするときにも「冒頭の3秒が重要」と言っているところに凄い説得力ありますね。10万部の増刷は凄い。
河野 凄いですよね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
今まではオフラインが主流だった「セレンディピティ」をオンラインの世界で起こし、それが実売にも繋がっていることには説得力があり、興味深い。
若者世代はプレゼン力が総体的に上がっている⁉
三石 あと、今の子達はプレゼン力が磨かれていると思いました。
河野 プレゼン力ですか?
三石 僕はNewsPicksが好きでよく見るんですが、スタートアップピッチコンテストをやっていて、先日、プレゼンをした11才の小学生の子に対してホリエモンが「今までプレゼンを聞いたなかで、君が最高だったよ」と言っていて。
河野 えー!
三石 そこで、なぜ若い子達のプレゼンがうまいかを考えてみました。やはりYouTubeに慣れ親しんでいることが大きいのではないかと思います。人が発信している動画を視聴することでどんどんインプットされるし、さらに自分がユーチューバーになりたいと発信していく人も増えてきているからじゃないかと思うんです。
河野 プレゼンのレベル全体が上がっているという視点は面白いですね。
三石 いやー、最高の時代が来ましたね。今回もありがとうございました!
≪三石所長(当時)`s Memo≫
今の若い子達は総体的に「プレゼン力」が上がっている傾向にある。
―――次回の【DXニュース】で取り上げるニュースは「ユニファイドコマースとは?オムニチャネル・OMOとの違いと事例解説」。河野さんが解説していきます。お楽しみに!