―――毎回、モバイルマーケティング研究所が厳選してきた注目すべきニュースから“GROWTH”につながりそうなポイントをピックアップする「DXニュース」。プレゼンターによる鋭い洞察を含めたニュース解説に、10年以上デジタルマーケティングに携わってきたGROWTH LABの三石所長(当時)が、マーケターとしておさえておくべきポイントはどこなのか、切り込んでいきます。
今回のプレゼンターは、国内外のリテールテックを10年以上見続けてきた株式会社DearOne代表取締役社長の河野恭久さん。河野さんと共に1回目に取り上げるニュースは「りそなHD、400万DL突破の「スマホアプリ」は何が凄い? 利用者最大のチャネルになれたワケ」。
それでは、はじめましょう!
河野さん注目!2021年9月のニュースピックアップ
三石所長(当時。以下、三石):「DXニュース」、今回のニュースプレゼンターは、リテールテックを10年以上見続けてきたCEOの河野さんです!
河野恭久(以下、河野):よろしくお願いします!
三石:それでは早速、河野さんが2021年10月にピックアップした注目ニュースを教えてください!
河野:はい、今月はDearOneが送っているメルマガ内のニュースで2021年8月16日~9月13日の期間に最もクリックされたトップ5のニュースと、僕が気になったニュースの中から5本、取り上げたいと思います。それがこちらです!
河野さん厳選! 2021年8~9月 TOPニュース
①りそなHD、400万DL突破の「スマホアプリ」は何が凄い? 利用者最大のチャネルになれたワケ
② 不二家があえて赤字の洋菓子部門からDXを始めるワケ(vol.2で解説)
③ TSUTAYAのデータ活用戦略、7000万人分の会員データをAIに生かせるか
④コード決済“一強”となったPayPayが迎える転換期
⑤ アパレル初!謎の1兆円未上場企業「SHEIN」の正体
三石:ありがとうございます! 早速ですが、①の「りそな銀行のスマホアプリ」について紹介・解説していただきます。よろしくお願いいたします!
ATMよりも平均利用者数が多いりそな銀行のアプリ! DL数は年間100万ペース
河野:はい! このニュース、僕はちょっと感動しました。元記事はこちらです。現在、りそなホールディングスが行っている「りそなグループアプリ」を核としたデジタルバンキングの取り組みが注目されています。
それを踏まえ、僕の視点からりそなホールディングスのアプリの注目ポイントをまとめてみました。こちらをご覧ください。
河野’s注目Point!①「りそな銀行のアプリ、何がすごい?」
1)1日あたりの平均利用者数がATMを大きく上回っている
2)アプリ導入によって、20~40代の新規顧客との接点ができている
3)約400万ダウンロード突破!年間約100万のペースで増加傾向
河野:まず前提として、りそな銀行を含む国内の金融機関は「店頭とATMに顧客設定が偏ってしまっている」という共通の“課題”を抱えています。
三石:国内の金融機関は、IT化、DX化が遅れているんですね。
河野:そうなんです。その状況の中で、りそな銀行はスマートフォンアプリを導入し、1日あたりの平均利用者数がATMを大きく上回る一番のチャネルにすることに成功したんです。
三石:なるほど。アプリのユーザー層が気になりますね。
河野:ユーザーは20~40代の若い方がメインだそうです。銀行の窓口を訪れるお客様は高齢の方が多いので、アプリを導入したことで「新しいお客様との接点の確保に成功した」と言えますね。現在、アプリ自体のダウンロード数は年間100万ペースで増えており、トータルでは400万を超えていると報道されています。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
DX化が遅れ気味の金融機関が目立つ中、りそな銀行はアプリ導入によってお客様との接点を増やすことに成功した
三石:それは凄いですね! でも、ここで1つ“疑問”なのが、他の銀行や金融機関も当然、同じことにトライしているはずですよね? なぜ、りそなホールディングスのアプリは、これだけの成功を収められたんでしょう?
河野:そうですね。りそな銀行が成功した起因として、3つの機能を備えたことにあると考えています。
りそなアプリが備えた「事前通知機能」「アドバイス機能」「フルバンキング機能」
河野:りそなアプリが備えた様々な機能の中で、僕は下記の3つの機能に注目しています。
河野’s注目Point!②「りそな銀行のアプリ、注目の3つの機能」
1)事前に口座振替や口座引き落としが数日後にあることを知らせる機能
2)顧客が興味を持つような情報や案内を表示するアドバイス機能
3)銀行の全ての機能をアプリで完結!「フルバンキング機能」
1つ目は、アプリで「事前に口座振替や口座引き落としが数日後にあることを知らせる機能」をつけたことです。これがお客様にとても好評で、「アプリのおかげで入金を忘れなくなった」と喜ばれているそうです。
2つ目は、お客様にさまざまなご案内を送る「アドバイス機能」をつけたことです。
三石:銀行からのご案内のメールって珍しいものではないですよね? むしろ、疎ましくて読まないイメージが強いです。
河野:興味のない営業メールが送られてきて、ネガティブなイメージをもつことありますよね。でも、りそな銀行の場合は、アプリのアドバイス機能をタップすると、お客様によって表示内容が変わる。つまり、ワントゥワンで、お客様が興味をもつ情報だけを表示しているんです。
三石:なるほど、データを分析して個々への情報を最適化していると。
河野:はい。そして最後の3つ目。一番のポイントはここです。りそな銀行が最も重視したのは「フルバンキング機能」を持たせることでした。
三石:フルバンキング機能とは、振込や公共料金の支払いなど、基本的には銀行の全ての機能をアプリ上で完結できることですね。
河野:そうです。僕たちもアプリ事業を長年やってきて、銀行とも多々話し合ってきた経験がありますが、銀行そのものをアプリ化する、フルバンキング機能をつくるという話は1回も出たことがありません。「それはできない」と言われるんです。
ちなみに銀行のフルバンキング機能がついたアプリを作るのが難しいと言われていた理由について、当時は大きく分けて2つありました。1つ目はセキュリティ上の観点から、2つ目は銀行側がデジタル化できていないためアプリ用(外部用)APIなどが用意できないからです。
三石:我々のような銀行の一般ユーザーからしても、フルバンキング機能が欲しいのに、どうしてもアプリでは一部機能に限られていますよね。
河野:それに対して、りそな側のコメントがこちらです。「来店ニーズを持つ顧客にアプリを利用してもらうには、店頭に匹敵する利便性をアプリに持たせる必要があった。店頭の補助的位置づけのアプリではなく、銀行そのものである」と。もう僕は感動しましたね(笑)。
三石:素晴らしいですね!
河野:ついに銀行がそこに踏み切ったというのが素晴らしいなと思いました。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
フルバンキング化に難色を示す金融機関が目立つ中、りそな銀行は顧客に
アプリを利用してもらうため徹底的に銀行の機能をアプリに持たせた
複数のサービスを束ねるプラットフォーマーが、今後の金融領域を支配する!?
三石:今後も伸びしろが多いと言われる金融領域は、銀行をはじめとする従来型の本家本元の方々に加えて、PayPayをはじめとした新興勢力、プラットフォーマーが攻めてきていますよね。まさに群雄割拠といった状態ですが、勝ち抜くためのポイントとは何でしょうか?
河野:気になるところですよね。僕らの会社(DearOne)の親会社であるNTTドコモも昔から金融に力を入れていて、dカードなどで既にある程度のポジションを築いています。何が言いたいかというと、“単体”で金融サービスそのものが大きくなり、他の事業を内包する世の中にはならないと思っているんです。
三石:なるほど、複数のサービスを提供する基盤を持つプラットフォーマーのほうが今後金融領域を支配していくのではないかと考えておられるわけですね。
河野:はい、既にある程度の基盤がある総合商社的な立ち位置を取れるNTTドコモやLINEなど、複数のサービスを束ねて消費者を囲い込んでるような企業が、一機能の追加として別途ファイナンシャルの部分を提供していくと思っています。
三石:そうなってくると、最終的には他のサービスとのシナジーや、気持ちの良い顧客体験みたいなものが重要になってきますよね。確かに、僕も銀行のアプリは使っているものの、振込するぐらいしか接点がありません。一方でプラットフォーマーとはいろいろなサービスで接点があるので、そちらの方が勝ち筋があると思っちゃいました。
河野:はい、だから今後は、銀行はプラットフォーマーに機能をAPIで提供するのみになる、という日が来るのかもしれませんね。
三石:ありがとうございます!今後の金融系のサービス展開に注目ですね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
今後の金融領域では、銀行単体よりも複数の事業を内包するプラットフォーマーが成長していくと考えられる
―――次回の【DXニュース】では、引き続き河野さんにあの洋菓子で有名な不二家のDX化のニュースをもとに、国内企業のDX推進化のポイントについて解説していただく予定です。ぜひお楽しみに!