エンジニア、デザイナー、マーケターなど、さまざまな職種のメンバーが参加しているDearOne「アプリ研究会」による座談会では、現在のアプリ事情について語り尽くします!
第11回のテーマは「消費財メーカー」。前編は「飲料メーカー」がアプリをどのように活用しているか、また今後の展望などについて議論します。
飲料メーカーはアプリに注力していない?
三石 今回のアプリ研究会のテーマは「消費財メーカー」です。コンビニやスーパー、ドラッグストアの棚に置かれている商品のメーカーをターゲットにしていきたいと思っています。 みなさん、よろしくお願いします!
一同 よろしくお願いします!
森田 まずは僕のほうから弊社のアプリ分析・利用動向分析サービス「SmaRepo」を元にした調査レポートからお話します。消費財メーカーを次の2つの部門に区切って調べてみました。
●飲 料
コカ・コーラ「Coke ON(コークオン)」
サントリー「サントリーGREEN+(グリーンプラス)」
●食 品
カルビー「カルビー ルビープログラム」
日清オイリオ「バランス日記 ~10 食品群チェック~」
カゴメ「トマサポ!」
ネスレ「ネスカフェ アプリ」
森田 最初に、1つ目の「飲料」からいきますね。コークオンは購入ごとにスタンプが貯まり、15回購入するとドリンクのチケットがもらえる形式で、グリーンプラスは100円で1ポイントが貯まる形式です。SmaRepoで2つを比べてみると、アクティブ数、率ともにコークオンのほうが高かったのですが、コークオンのほうがお得感が大きいからですかね?
小笠原 これはそもそもで言うと、グリーンプラス を見てみると全ユーザー向けのアプリじゃなさそうですね。「本アプリは対象自販機導入企業専用」とメッセージが出てくるので、企業のインセンティブというか、インナー向けのアプリだと思いました。
三石 なるほど。それだと比較論で語ると目的が違うね。森田くんが飲料系のアプリを調べてくれたときに、キリンやアサヒ、サッポロなどのアプリはなかったんだよね?
森田 はい、有名な企業は全部調べたのですが、アプリがあったのはこの2つだけでした。サッポロはWebアプリがあって、スマホアプリは今年出すようですが、まだ出てなくて……。
三石 そうか、飲料メーカーはアプリに注力してないのかもね。参考資料として、「Markezine」や「ケータイWatch」の記事に日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部 IMC iマーケティングシニアマネジャー 宇川有人さんがコークオンを何の目的で開発したかを語っている内容のものがあるので貼っておきますね。
三石 これらの記事で書いてあるポイントは、現状、コークオンは自販機で買うためのツールという側面があるものの、ドラッグストア、コンビニ、スーパーマーケットなど、マルチチャネルで、どこで買ってもらってもエンゲージするようになることが目的ということです。
小笠原 なるほど。
三石 あとはキャンペーンですね。消費財メーカー、特に飲料メーカーはたくさんの広告予算が出て、キャンペーンを大々的に行うと数百万件というレベルで応募が集まります。そういう観点でのモバイルマーケティングは進んでいる業界だけど、アプリに注力していないということはCRM的な観点のマーケティングだったり、アプリを媒介にユーザーとコミュニケーションしていったりすることはあまり思考していない――ということかなと感じました。
飲料メーカーはアプリよりもLINEでマーケティングしている⁉
小笠原 メーカーがユーザーにIDを直接つくってもらったりすると「サプライヤー軽視」と捉えられるからだと思います。だから多くの飲料メーカーは消費者と直接取引するD2Cという形式をとらず、ギリギリのサービスを展開している印象です。
三石 なるほど。流通を飛ばしてアプリをつくると「どっちを向いて仕事してるんだ」と反発される可能性があると。
小笠原 そうです。日本は“間に入ること”でお金を生み出す社会構造になっていることが多くて、それを壊すのはハードルが高いですよね。エンドユーザーがお金を払う先はサプライヤーで、サプライヤーがエンドユーザーに還元することはできないので。
三石 確かにそうだね。消費財メーカーはアプリをつくっていなくても、LINEで企業アカウントをつくってマーケティングしてますよね。ということは、消費財メーカーはユーザーとのエンゲージの設定としてはアプリよりLINEを重視しているんですかね?
小笠原 LINEでやっているのは会員をつくらなくていいからでしょうね。LINEの識別子は特別なもので、自分達でCRMシステムをつくらなくてもざっくりとした会員組織管理ができます。なので消費財メーカーとしてはハードルが低いんだと思うんです。まぁLINE運営でもお金はかかりますけど、メーカーは費用が潤沢な傾向にあるので、そこまで問題にはならなさそうです。
三石 サントリーのLINEを見ると3,300万人もLINE友達がいますね。要するにマスマーケティング的な活動をLINEでやっている、ということですよね。
河野 3,300万人いる時点でCRMとしては機能していなくて、「LINE」ですよね。サントリーのブランドファンはそんなにはいないはずなので、クーポンを求める人がフォローしているのが現状です。メガメディアでやろうとするとこうなりがちで、まだオウンドメディアが勝っているということでしょうね。
三石 キリン も2,800万人いますね。アンケートに答える、お知らせなどの機能もあるんですね。
河野 僕もキリンのLINE友達になっていますけど、ここにある機能は初めて見たぐらいです。実際のところ、2,800万人もキリンに帰属意識をもつ人はいないので、やっぱりマスメディアなんですよ。
小笠原 ドリンクのブランド1つひとつにだったらファンがついているかもしれませんが、「キリンのビールが好きだからキリンレモンを買いに来る」という人はいませんよね。
三石 確かに。消費財メーカーのマーケティングはそれに尽きて、検討購入を真剣に吟味されることはほとんどない。ユーザーとしては、店に行ってどれにするか決めるだけですよね。だいたい長年の親しみがあるブランドか、キャンペーンで印象に残ったブランドを選んで。
小笠原 それで言うと、コカ・コーラは2歩3歩抜けてますね。「自販機で体験する」という体験を売っていて、同じことを他社がやろうとしても、コカ・コーラのようなベンダーマシンのネットワークを持っていないからできないでしょうし。
価値提供が明確なアプリが成功している
三石 そうだろうね。あれ? でもサントリーのLINEの「購入はこちら」を押すと、Amazonや楽天、Yahoo!ショッピングが出てきて、普通に買えちゃいますね。これはサプライヤーが怒らないのかな?
河野 昔よりはサプライヤーに対する忖度はなくなっていますけど、売上比率でいったらまだ逆転には至らないから、卸業者やサプライヤーは気にせざるをえないと思いますよ。
小嶋 飲料メーカー様とアプリ開発のお話をする際、ファンマーケティングアプリの話になることがあるんですがかなり難易度が高いなと思います。また、アプリでの直接の販売がハードルが高いため、加盟店送客(自社のビールが飲める店をマップ上に表示するアプリ)を考えたりするんですが、ユーザーに価値を提供しきれず、うまく行かないケースが多々あります。
三石 うんうん。
小嶋 他にもポイントを貯めて抽選など、飲料メーカー様のアプリはいろいろやっているんですけど、なかなか難しくて、多くの企業が明確なベネフィット提供できずに終わってしまったアプリも多いように思います。そもそもファンマーケティングだと、アプリよりもSNSのほうが相性はいいですよね。
三石 そうだよね、インスタのほうがインプレッションがあるから……という中で「SNSではできないけど、アプリだからこそできること」はあるかな?
小嶋 メーカーアプリの成功例を考察してみると、企業の提供価値が明確で、それを本気でアプリとして提供できている企業が成功してるように思います。たとえば、消費財メーカーではありませんが、ナイキ はまさに自社が提供している価値がそのままアプリになっています。たとえば実店舗とアプリが連動したサービスを展開していたり、各個人にあわせたスポーツやトレーニングに関する情報が表示されるようになっていたりします。ここまで昇華すると、アプリとして価値がありますね。
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三石 なるほど。消費税メーカーはアプリでいかにブランドロイヤリティを高められるかが今後の課題かもしれませんね。
河野 アプリではないですが、最近「DXニュース」でもナイキのD2C手法について取り上げたので、ぜひ読んでみてくださいね。
≪三石所長(当時)`s Memo≫
消費財メーカーは現在アプリよりもLINEを利用している傾向にある。今後、いかにアプリを利用してユーザーにそのメーカーならではの価値を提供できるかが課題。
―――次回の【アプリ研究会】は、「食品」領域のアプリについて議論します! お楽しみに。