Adjustと米モバイルアプリ調査会社のSensor Towerのデータに基づくショッピングアプリの最新トレンドを分析した「Eコマースアプリレポート2021」によりますと、アプリ内収益は2021年に大幅に増加し、2021年5月にこれまでで最大の収益を上げました。また、インストール数はAPAC(アジア太平洋地域)で9%増、LATAM(中南米)で11%増、EMEAで15%増となっています。成長をしている分野ではありますが、アプリを導入し成長を狙う企業も多いため、これまで以上に厳しい競争を勝ち抜かなければなりません。多くの企業にとって、既存のユーザーに継続してアプリを利用してもらうことがモバイルコマースの成功の鍵となるでしょう。
アプリユーザーを維持することは、ビジネス上、多くのメリットがあります。ユーザー獲得(UA)には時に多くのコストがかかります。特にEコマースの新規顧客獲得では、既存顧客の維持よりも5〜25倍ものコスト*1https://hbr.org/2014/10/the-value-of-keeping-the-right-customersが必要であり、マーケターはコストの増加を実感しています。
さらに、既存顧客は新規顧客よりも収益貢献度が高いことが判明しています。Frederick Reichheld of Bain & Companyの調査データ*2https://media.bain.com/Images/BB_Prescription_cutting_costs.pdfは、顧客の継続率が5%増加すると、利益が25〜95%増加することを示しています。iOS 14のユーザープライバシーとアトリビューションデータに関する変更、さらに、iOS15以降で導入されるメールトラッキングの変更を受けて、ユーザー獲得がさらに困難になっている今、継続率向上に焦点を当てることは重要度を増しています。新規ユーザーを効率的に獲得することが難しくなるにつれて、ユーザーのロイヤリティを高めることがすべてのアプリにとっての成功の鍵となるでしょう。
Adjustの「Eコマースアプリレポート2021」によると、1日あたりのEコマースアプリ内滞在時間も増えてることが判明しました。セッションごとの平均アプリ滞在時間は世界的に増加しており、2019年は10.07分、2020年は10.42分、2021年は10.56分と優れた継続率を達成しています。
また、eCPI(有効インストール単価)も増加し続けています。特にAPACではeCPIの増加が最も著しく、2020年から2021年にかけて3倍以上になりました。コス トは2020年第1四半期の0.69ドルから2021年第1四半期の1.60ドル、2020年第2四半期の0.42 ドルから2021年第2四半期の1.88ドルに増加したことから、投資に対する利益を確保することがいかに重要かが分かります。初回インストールコストを最大限活用するためには、継続率に焦点を当てる必要があります。ユーザーが商品を購入するためにこれらのアプリを利用することが多いEコマースでは、収益化は比較的容易です。iOS 15ではチャネルを評価するために使用する確定的データが減り、商品に関心のある消費者を見つけるためのターゲティングの精度が下がるため、コンバージョンに至りやすい質の高いユーザーを獲得するための初回コストは増加しています。これは、ユーザーとの関連性の高いパーソナル化された広告を配信しにくくなったこととも相まっています。
ロイヤリティを高める方法
広告主がデータの不足に対処する方法の1つに、コンテクスチュアル広告があります。ユーザー個人の関心や特徴ではなく、ユーザーのオンラインエクスペリエンスの「コンテクスト」に基づいて広告をカスタマイズすることで、消費者データの重要度はそこまで高くなくなります。コンテクスチュアル広告などのアプローチを試すことがマーケターにとって重要である一方、強力な消費者データを得るための方法は他にもあります。既存ユーザーからデータを引き出すのです。
パーソナライゼーションは現代の商取引における強力なツールであり、91%の消費者は、パーソナライズされた特典やおすすめ商品*3https://www.affde.com/ja/building-blocks-of-personalization-in-account-based-marketing.htmlを提供するブランドで買い物をすることを選んでいます。パーソナル化された広告を受信することに同意したユーザーを探すのはますます難しくなっているものの、マーケターは質の高いユーザーを獲得し、継続してアプリを利用してもらわなければなりません。
プライバシーを保護しつつ顧客のゼロパーティデータを使用するための方法として、ロイヤリティプログラムがあります。たとえば、特典プレゼントなどの報酬を用意してユーザーにアンケートに回答*4https://www.synoint.com/2020/11/13/zero-party-data-the-pros-and-cons-of-incentives/してもらったり、特定の行動をとったユーザーを対象に割引をプレゼント*5https://www.talon.one/blog/promotions-arent-just-for-sales-heres-how-tier-incentivize-behaviorしたりなど、ユーザーが進んでアプリを共有したくなるような方法でデータを収集することができます。
ゼロパーティデータとは
ゼロパーティデータはForrester*6https://www.forrester.com/blogs/straight-from-the-source-collecting-zero-party-data-from-customers/による造語で、「顧客の関心や好み、購入の意図、個人的なコンテクスト情報、顧客がブランドに自身をどう見てもらいたいかなど、顧客が意図的かつ積極的にブランドと共有するデータ」として定義されています。
ゼロパーティデータは、利用可能なユーザー情報の中で最も価値の高いもののひとつです。ユーザーが意図的に提供するデータであることから信頼性が高く、ユーザーが連絡を希望していることを確認できます。また、ゼロパーティデータを提供しているユーザーは、データを共有することでよりパーソナル化されたエクスペリエンスが得られるという価値交換を期待しているため、コンバージョンに至る関連性の高い機会を提供できるよう進んで協力してくれます。
iOS 15では、AppleのMailアプリでトラッキングピクセルが使用できなくなるため、メールキャンペーンを実施しているマーケターにとってこれはさらに重要になります。トラッキングピクセルは、GmailやiOS 15デバイスにインストールされているその他メールクライアントのユーザーには使用できるものの、全モバイルユーザーの37%がMailアプリを使ってメールを開封している*7https://www.litmus.com/email-client-market-share/ということを念頭に置いておく必要があるでしょう。この数字は、iOSユーザー単体で見るとはるかに大きくなります。
メールマーケティングにおける新たな課題と重要性の高まり
平均的なメールリストの約60%*8https://neilpatel.com/blog/re-engage-dead-email-subscribers/が非アクティブまたはリーチ不可能と言われており、メールの開封率を確認する方法がないことから、離脱したユーザーを排除することはできません。ユーザー登録後に確認メールを送信するなど、初回登録時に二重でオプトインしてもらうことで、少なくとも初期段階ではアプリに注目しているユーザーを獲得していることが分かります。
これを行う上で鍵となる方法がいくつかあります。
メールのオプトイン率を高めるための5つのヒント
- クーポンや割引をプレゼントする:たとえば、美容製品メーカーのBlissは、ニュースレター購読に同意したユーザーの初回注文を20%オフにしています。自社のアプリでこうした割引ができない場合は、特別なコンテンツやアプリ内通貨などの何かしらの価値を提供することを検討しましょう。重要なのはユーザーの注目をアプリに引きつけることです。
- ポップアップやアプリ内メッセージを使う:アプリのブランドイメージに合った魅力的なデザインを使って、必要最低限の情報を収集しましょう。「閉じる」などのボタンをよく見える場所に設置し、ユーザーを苛立たせないために聞くのは1回だけにします。
- テストして効果のある施策を繰り返し行い、都度改善する:UXに関するあらゆる意思決定と同様に、複数のクリエイティブを使った実験やABテストをして何が有効かを確認することで継続率を最適化できます。バナーや、ユーザーの注目を引くコピーをたくさん使ったランディングページなど、さまざまな行動喚起(CTA)パターンを試してみましょう。
- 適切なタイミングを見極める:クリエイティブの他にも、ユーザーにメールの受け取りに関して尋ねるタイミングで一番適切なのはいつかをテストしましょう。アプリのインストール直後にポップアップを表示したら、ユーザーはすぐにオプトアウトしてしまうかもしれません。同じユーザーでも、アプリの価値を伝えた後であればメールの受け取りに同意してくれる可能性があります。
- 分かりやすく説得力のあるコピーを使う:メールを受け取ることでユーザーが得られるメリットを伝えましょう。最新情報や役立つヒント、特典クーポンや割引情報など、ユーザーが思わず受け取りに同意したくなる内容を盛り込むことが重要です。
顧客について学ぶ
継続率向上のためのロイヤリティ戦略は、多くのカテゴリーにおいて効果的です。ゲーム以外のアプリがゲーミフィケーションの手法*9https://ferret-plus.com/6840を取り入れたり、ゲームアプリが航空会社によく見られるロイヤリティプログラムやボーナスシステム*10https://wappier.com/blog/hyper-casual-gamesを採用したりと、カテゴリーを問わずにさまざまな手法を使用できます。特にカジノアプリがロイヤリティ戦略を活用して継続率を高めている一方で、Eコマースアプリもこうした戦略で業績を伸ばそうと動いています。
オムニチャネルの信頼できる識別子としてIDFAを利用することはできなくなりましたが、マーケターは今でもIDFVやファーストパーティのその他の識別子にアクセスし、イベントや行動を顧客にアトリビュートできます。IDFVは、企業がファーストパーティのユーザーデータにアクセスするための識別子を提供し、自社が所有するアプリ内のオーディエンスを把握する機会をもたらします。
あらゆるイベントがロイヤリティのメリットをもたらす可能性があるため、前述のロイヤリティ戦略*11https://www.talon.one/download/the-promotions-growth-frameworkの一環として、インセンティブの対象となる行動を決定する必要があります。ロイヤリティプログラムは、特定の行動によって何が得られるのかを顧客に直感的に説明できるというメリットがあります。行動を起こすことで成果が明確に提示され、多くの場合金銭的な報酬額も設定されています。ユーザーはロイヤリティ制度の恩恵を受けるために進んでアカウントを作成しており、ロイヤリティ環境におけるパーソナライゼーションのメリットについてもはっきりと認識しています。
2022年に優れたパフォーマンスを出したいマーケターは、ゼロパーティとファーストパーティのデータを組み合わせてパーソナライズされた顧客体験を提供する必要があります。プライバシーへの関心がますます高まる中、データの問題を懸念することなくユーザーの継続率を高めるにはこれが最も効果的な方法と言えるでしょう。
*1 | https://hbr.org/2014/10/the-value-of-keeping-the-right-customers |
---|---|
*2 | https://media.bain.com/Images/BB_Prescription_cutting_costs.pdf |
*3 | https://www.affde.com/ja/building-blocks-of-personalization-in-account-based-marketing.html |
*4 | https://www.synoint.com/2020/11/13/zero-party-data-the-pros-and-cons-of-incentives/ |
*5 | https://www.talon.one/blog/promotions-arent-just-for-sales-heres-how-tier-incentivize-behavior |
*6 | https://www.forrester.com/blogs/straight-from-the-source-collecting-zero-party-data-from-customers/ |
*7 | https://www.litmus.com/email-client-market-share/ |
*8 | https://neilpatel.com/blog/re-engage-dead-email-subscribers/ |
*9 | https://ferret-plus.com/6840 |
*10 | https://wappier.com/blog/hyper-casual-games |
*11 | https://www.talon.one/download/the-promotions-growth-framework |