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GLOBALIZED 失注を防ぐグローバルサイト戦略|AI時代の新しい多言語化【イベントレポート】

2023.07.14

この記事は、2023年6月16日に開催されたGLOBALIZED B2B製造業向けイベントの一部セッションレポートです。

「世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする」Wovn Technologiesを紹介!

WOVN 上森氏|
こんにちは、私はWovn Technologies株式会社 取締役副社長 COOの上森と申します。

「AI時代の新しい多言語化」ということで、グローバルサイトで活用されている、AIよりも新しい多言語化とその背景のお話をさせていただきます。

私たちは「世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする」というミッションを掲げております。

世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする

私たちが創業した2014年、インターネット上の日本語コンテンツは全体の5%でした。今は3%です。これは日本語のプレゼンスが下がったというよりも、それ以外のあらゆる言語の方々がインターネット上で仕事をしたり、情報を見たりするような世界になってきたということです。

今後はさらに他の言語のボリュームが増えていくと思います。その時に、どんな言語の方であっても、自分たちの母国語でインターネット上にアクセスすれば、世界中の情報が見られるような世界を作っていきたいと思っています。

インターネットを多言語化するサービス

主要製品は「WOVN.io」というWebサイトを多言語化するサービスで、元となるWebサイトのHTMLに1行のスクリプトを挿入するだけで、システム開発することなく、あらゆる言語で、言葉だけでデザインやサイト構築ができるものです。

Localize the internet

提供し始めてから9年が経ちましたが、一番最初に日本で特許を取得し、アメリカ、シンガポール、中国、香港、今はヨーロッパでの申請をしているような技術になります。

Technology・International・Finance

大変ありがたいことに、本当に多くのWebオーナーにご活用いただき、WOVNで多言語化したページを訪れるユーザーは今、累計で30億人を超えました。

WOVN情報

WOVNは社員が約100人の会社なのですが、製品に関わるメンバーが4割で、20ヶ国以上から集まったメンバーが東京のオフィスで仕事をしています。それから今、製品開発のために資金調達も進めており、累計54億円の資金を元に製品を開発しています。

どのような投資家様に出資いただいているかご紹介すると、国内ではNTTファイナンス様、凸版印刷様やベンチャーキャピタル、2021年には海外のクロスボーダーの投資家様からもご支援いただき運営しています。

サービスを提供している産業も多岐に渡りBtoB、製造、金融、エンターテインメント、メディア、小売、流通、SaaS、学校などさまざまな企業・組織で使っていただいています。

B2B製造業

特にこの2年間は、BtoBの製造業様の企業課題をお聞きすることが多かったので、各チームで力を入れて取り組んでいます。

多言語化の2大要望に応えるのは「シグナリング効果」と「新鮮な多言語サイト」

What our customer wants to do

今回のテーマにも掲げたように、同業界からのご相談が大変増えていて、どうしてなのか考えてみました。

さまざまなケースがあるのですが、WOVNの技術を使って多言語化していく需要が少なからずあることは事実です。

多様な依頼内容をざっくり集約してみると、大きくは「言語拡張」と「更新したい」という二つに分かれます。

一つ目の「言語拡張」とはつまり「言語を増やしたい」ということで、例えば今日本語と英語だけで情報提供しているが、中国その他の国にも一社一社取引先があるといったケースが今後は増えるかもしれません。

二つ目の「更新したい」というのは、日本語公式サイトとは別に、気合を入れてインターナショナルサイトを構築している企業も多いですが、それでもほとんどのケースが日本語サイトの約10分の1くらいのコンテンツ量で動くページを作っていて、そうするとインターナショナルサイトの方はほぼ更新しなくなってしまうという問題がどうしてもつきまといます。

そこで今、それぞれ「シグナリング効果」と「新鮮な情報(多言語サイト)」という2つの観点からお話ししていきたいと思います。

多言語化における「シグナリング効果」とは

まず「シグナリング効果」というのは、よく金融などで使われる言葉で経済学部ご出身の方は聞いたことがあるかもしれませんが、ここでは海外の企業と取引している姿勢を強調することによるプラスの効果を指します。

Alcoa社のWebサイト

スライドはアメリカで上場している素材系メーカー企業のWebサイトですが、基本的には「コンタクトセールス」というバナーをクリックしてもらえる確率を高めたいと考えています。

なぜなら、今はCookie規制があり、日本だけでなく海外でも1件当たりのCPA(顧客獲得単価)が上がっているため、各企業ともWebサイトに来てくれた人は、何とか次の資料請求つまり「コンタクトセールスアクション」につなげたいという切実な背景があるからです。

ここで、「コンバージョンレート・オプティマイゼーション」と呼ばれるような、コンバージョンを上げるさまざまな技もありますが、弊社は「多言語化屋」なので、本セッションではそうした観点からお話ししたいと思います。

シグナルの発信

ここで強調したいのは「シグナルの発信」ということで、つまり簡潔に言うと「さまざまな海外の企業と取引しているか」のアピールです。

具体的には、そのような雰囲気を出すだけではなく、海外のお客様を積極的に受け入れるという姿勢とともに、その方々が母語とする言語で伝えるということで、実際に弊社のユーザー企業様や他社の担当者様にヒアリングをしても、間違いなく効果があるところです。

代表的なところでは、英語サイトがあればイギリス・アメリカなどにあるお取引先様はアクセスしやすいですし、そのほか中国語、フランス語、スペイン語、タイ語、ベトナム語など、とにかく「海外企業と取引をしていきたい」というシグナルを発することが重要です。

セジョンEV社のWebサイト

例えば、スライドは韓国のEVメーカーで、ただサンプルとして持ってきただけですが、海外企業と取引している企業よりもドメスティック色が濃く、外国人がアクセスしづらい内容になっています。

セジョンEV社のWebサイト1

ユーザーはWebサイトを読めないときどうするかというと、Google Chromeなどブラウザの自動翻訳機能で英語や日本語の表示に切り替えるわけですが、「セジョンイブイ技術」などといった、よくわからない訳語が表示されることが多いです。

セジョンEV社のWebサイト2

ユーザーはここに求めるプロダクトがあれば、読めないながらも問い合わせをするでしょうが、それでは機会損失につながりかねませんから、企業はそれを積極的に受け入れる姿勢を示すため、例えばWOVNで「セジョンEVテクノロジー」などのしっかり伝わる表記に修正し、自分たちの言葉でメッセージで伝えていくということが重要です。

新鮮な情報(多言語サイト)の重要性とは

そして、もう一つの「新鮮な情報」とは、つまり「最新の多言語情報を伝えたい」ということです。

1年遅れ・情報量少なすぎ問題

スライドはコネクタの先端技術を持っているKEL様というメーカー企業で、3年前から一緒にプロジェクトを進めています。

一番最初にお話をいただいたときは、「日本語と英語のWebサイトがあるのですが、英語のサイトは半年遅れでようやく更新をしています」という状況で、結構そのような企業様が多いのではないかと思います。

英語の情報は日本語の10分の1くらいなのに半年経ってやっと更新できたとか、ドイツ語や中国語に至っては1年以上かかってアップデートされる状況でした。

そうすると何が起きるかというと、現地のセールスやサポートの方などは、毎回どこかしらから情報を集めてきて資料を作らねばならなくなります。

商品を販売しているパートナー企業などにも情報がないため、何とか頑張って情報を集めてきてという手間が重なるとどうしても遅くなってしまうという問題をWOVNで解消し、今ではリアルタイムに日本のコンテンツをベースに多言語で展開できるようになりました。

ESGなどブランドガイドライン更新への対応

それから特にこの2年間くらいで顕著なのが、ブランディングに力を入れている企業のブランドガイドラインが大きく変更・更新される例が増えました。

特にBtoB企業のブランドガイドラインの中には、企業全体の方針として「こんなクリエイティブを使ってください」と強く打ち出されることが多いです。

例えば、「ESGという文脈からよりクリーン/グリーンっぽい感じ」にしたり、人が載っている写真も、白人だけ/アジア人だけではなく多様な人々が写っている最適な写真をパンフレットに使ってください」など、昔は使われていなかったようなクリエイティブを指定する形にこのガイドラインが変わってきています。

状況はBtoCでも同様で、もう既にこのようなアップデートが行われている企業様も多いかもしれませんが、そのような中、「英語・外国語のサイトは更新が漏れて古いもののままになっている」という課題についてお伺いすることがよくあります。

新鮮な多言語サイト

それを解決するのが「新鮮な多言語サイト」で、それには「古い情報」(正しくない)、「情報鮮度」(価値がない)、「ひと昔前の価値観」(価値観ズレ)という三つの観点があります。

一つ目の「古い情報」(正しくない)では例えば、今ある製品と違う旧製品を掲載し続けていたり、オフィスの住所が古いものが載っているケースなどがありました。

二つ目の「情報鮮度」(価値がない)では、例えばプレスリリースも古くなってしまうと価値が半減してしまったりします。

そして三つ目の「ひと昔前の価値観」(価値観ズレ)では、前述のESGなど最新のブランドガイドラインに準拠せず、一昔前の価値観をそのまま提供し続けている場合が散見されます。

多言語化に当たってよく見られる問題

Other Common Problems

それ以外にもこの領域でよくある問題をピックアップしてみました。

まず、日本語の情報で住所などが間違っていることはほとんどないですし、日本語の情報だとおかしな部分があれば必ず指摘が入って更新されます。

一方、多言語の情報だとあまりリソースを割けないため、生産終了モデルがそのまま「販売」されていたりするなど、さまざまなことが起きています。

また言語差異の問題があり、例えば同じ英語でも地域によって表現の仕方が違うということが往々にしてあります。

それから、サイト内検索が外国語ではヒットせず検索ができなかったり、英語の情報を提供していてもYouTubeでの製品紹介を日本語の字幕/ナレーションのまま埋め込んで掲載しているため内容がわからないといったことも起こりがちです。

そのほか、マニュアルやカタログは基本的にPDFを使用されている企業が多いですが、外国語版はなかなか更新できていないという声もよく聞きます。

最後はプライバシー規制・GDPRです。おそらくグローバルに展開されている企業様は既に企業内で対処したりしていると思いますが、国によって規制の思想が全く異なり、ヨーロッパでは基本的人権を守るためのルールとしてGDPRが整備されています。

他方、消費者保護の観点に立つのがアメリカのカリフォルニア州が施行したCCPAで、また中国では国家安全のために「サイバーセキュリティー法」に準拠せねばならなかったりします。

日本では「個人情報の保護および活用」という堅苦しい感じの規制である「個人情報保護法」があり、これらはいずれも、インターネット上で国をまたいで他のユーザーにデータを提供するときに、必ず対処せねばならないものとなっています。

多言語化で重要な「ローカリゼーションマネージャー」の役割を果たすWOVN

以上のようなことが起こりがちなのですが、欧米をはじめとする海外企業よりも、日本企業の英語・中国語など多言語ページで特によく起こります。これはなぜかというと「ローカリゼーションマネージャー」が日本に不在であるためと言えると思います。

別名「トランスレーション(翻訳)マネージャー」と呼ばれることもありますが、つまりさまざまな国にサービス提供している企業における、翻訳プロジェクト全般を管掌するスペシャリスト職です。

チームを束ねて翻訳をまとめたり、その他もろもろのローカライズをまとめて解決するマネージャーのことで、こうした役職が日本/アメリカ/ヨーロッパの各国・地域でどれくらいの企業に存在しているかをLinkedInで調べてみました。

結論から言うと、ある程度予想していた通り日本にはローカリゼーションマネージャーという仕事の人はほぼいないという事実がわかりました。

ただし、日本でも例外的にゲーム、トップ製造メーカー、製薬などの業界にはこのような仕事をしている方がいます。

例えば、多言語サイトで更新漏れがあれば更新を主導し、クリエイティブが古ければクリーン/グリーンな今風のものに変え、その他GDPRへの対応なども行っていきます。

Localization Manager

ただ、こうした役割の人が他の日本企業にはほとんどいません。そこを補うため、弊社はローカリゼーションマネージャーがいなくても多言語対応できるソフトウェア開発をコンセプトにしています。

その際、ローカリゼーションマネージャーという概念を知らない方がほとんどで、その道のプロ向けのツール技術にしてしまうと使いこなせないおそれもあることから、最もシンプルに多言語対応ができるプロダクト開発を心がけています。

Localize the Internet2

主要機能・特徴としては、ノーコードで開発不要ということに加え、英語や中国語などで検索した海外の方も含めインデックスされた検索SEOが確認できます。

そのほかダッシュボードで使っているリソースが見られたり、あらかじめ翻訳のエンジンが選別されているほか、AIチェッカーなども備えています。

Wovn Technologies株式会社 取締役副社長COO 上森 久之 氏

WOVN最初のコア機能が前述の「開発不要+SEO」というもので、1行のスクリプトをWebサイトのHTMLに貼るか、あるいはプロキシ設定さえすれば、元の日本語サイトからそれぞれの言語のWebサイトを構築し、URLもそれぞれの言語ごとに設定でき、検索SEOにも効くようになるという機能を開発なしで提供させていただいています。

WOVN Dashboard

それから「ダッシュボード」。すべて人力で翻訳した場合にどれぐらいかかったという時間コストなど他の代替手段と比べ、例えば私たちのWebサイトの場合は500万円のコスト削減につながっていて、累計827時間の作業が省けたということを見て取ることができたり、また、実際に使った翻訳ボリュームも、月次でどの言語にどれくらい使われたか、一目瞭然で把握できるようになっています。

WOVNは動的なWebサイトで利用いただくことが多く、ページが新しくできて更新されるタイミングには、結構業界全体に季節性があったりします。

そこで、1年を通してどれくらい使われているかをトラッキングしながら、「来年はおそらくこれくらい使われます」といった予測も見られるようにしています。スライドは実際に公開していくページの、予測のダッシュボードです。

Multi-Engine

そして、機械翻訳のエンジン。GoogleやDeepLなどは皆様も日常的に使われると思いますが、世界には100以上の多くのエンジンがあります。

どのエンジンがどれくらい品質がいいかについては、「ブルースコア」というかなり高度な評価基準で評価します。その一定のルールに従って高いポイントが出ても、「一般的には良くても、用途によっては特に良くない」という評価になるなど、確率的な部分も含め調べています。

新しいエンジンが出る度、弊社のような専門企業が「それは使いやすいのかどうか」、「特性は何なのか」といったことをこのような高度な評価で検証し、選別した上でユーザー企業に提供します。

今、私たちはGoogleやMicrosoftではなく、主にDeepLを使っています。それぞれに特徴があり、まずGoogleは正確でDeepLは流暢です。正確さと流暢さどちらを重視するかによって、場合によっては正確性がやや欠けたりするなど、ここは少し相反する要素となっています。

それから対象言語が全然異なり、Googleは130以上のさまざまな言語に対応できるのに対し、DeepLは30くらいです。一方、日本のNTT系の「みらい翻訳」は日本語と中国語に強い一方で使えない国があるなど、エンジンによってそれぞれ特性があるので、WOVNはそれを集約・選別して提供しています。

AI時代の「新しい人力翻訳」とは?

誰でもプロの翻訳者並みの翻訳が実現できる時代が到来!

Localize the Internet3

以上のように、技術力が高いソフトウエアエンジニアが社内にいなくても、基本的には開発なしで多言語対応ができる機能を「WOVN.io PRIME」というサービスで提供してきました。

特に「翻訳をもっといいものを提供したい」という声をたくさんいただいたり、またChatGPTを含めAIが大変使いやすくなってきたので、「Human computation with AI」という、プロの翻訳者でなくても高品質な翻訳を実現できる新サービスも提供し始めています。

LLMを活用したサービス提供が「当たり前」の世の中になっている

これはいわば「AI時代の新しい人力翻訳」で、AIを使ってプロの翻訳者並みの翻訳を提供できるという世界が到来しています。日々、ChatGPTのプレスリリースがたくさん出たり、日経新聞などに載ったりしていて、北海道の田舎にいる母でも知っているほど急速に広まっていますが、新しいものが出てくると古いものもそれに合わせて変わっていきます。

「写真」が出た頃、人類は「絵画」の代用として使おうとしていた

「写真」というものが今から約200年前に出てきたとき、「絵画」に取って代わるだろうと言われました。

特に「記録を残すことを目的にした絵画はなくなってしまうのではないか」と言われたりしていました。

人力翻訳は贅沢品として、魂を込めるべきものになる

しかし現在、写真に対する絵画の存在がどうなっているかというと、ご存知の通り写真と比較して贅沢品とみなされるようになっています。写真産業も工業化され、誰でも1枚1枚写真を撮って楽しんだり、記録したりできるようになり、確かに記録するために絵を描く人は今ではほとんどいなくなってしまいましたが、楽しみとして絵を描いたり、贅沢品としての絵画作品の需要はなくなっていません。

人力翻訳も同様で、この数年でかなり変わり始めていますが、本の翻訳などは機械/AIではなく従来通りプロが行っています。

こんな人力翻訳で満足していませんか?

このほかトム・クルーズの通訳は、必ず戸田奈津子氏が担当することで有名ですが、翻訳において芸術作品分野と産業化され安価に大量生産する分野が、3年くらいの間に一気に別れていくだろうと思っています。

機械翻訳の「正確性」と「流暢性」をめぐる課題

機械翻訳に対して課題に感じられていること

今使っている機械翻訳に対しては、不安や課題を感じることも正直多いです。先ほどお話した通り、「翻訳の品質」という場合には、内容が正しいかどうかという「正確性」と、文が流暢で読みやすいかという「流暢性」という二つの大きな要素があります。

正確かどうかという観点はやはりとても重要で、「致命的な誤りがないか」、「大切な固有名詞を間違えていないか」、「抜け漏れがないか」という点が問われます。

一方、流暢性に関してはフォーマル/カジュアルのトーンや表記ゆれ、コンテクスト(文脈)の理解度などが問われ、特に表記ゆれが出てきてしまうことが多いです。

AI時代に求められる翻訳に対応する「Auto QA」機能

AI時代に求められる翻訳のありかた

これら両方を解消していくのに、WOVNでは「Auto QA」という機能を提供しています。この機能を使えば、新しい日本語ページができたらそのページを読み取って、英語のページを勝手に更新していきます。

更新を検知したら翻訳エンジンにかけ、一度機械翻訳したものに対し、今度はChatGPTで品質検証していきます。

AIが得意な領域は、このように間違っているところやおかしなところがないか検査・テストを代わりに行うことです。従来は白黒つけやすいごく簡単なものしか品質チェックできなかったのが、大規模言語モデルが一般的に使えるようになったことで、例えば「公序良俗に反するところがないか」といった高度な内容も検査対象に含めるなど、怪しいところはすべてリストアップできるようになりました。

このように、非常に曖昧・複雑な部分も検査対象とすることができるので、検証し問題を検知して修正、公開するというこの一連のプロセスをすべて自動で提供するというのが「Auto QA」です。

Wovn Technologies株式会社 取締役副社長COO 上森 久之 氏2

それでは、これからのAI時代には具体的にどのような翻訳が求められるのか?従来の機械翻訳だと「今日はいい天気ですね」→「Today’s weather is good.」などと出てくるだけでした。

ここに対して先ほどのプロセスを挟むとどうなるかというと、一度翻訳したものに対してAIから「What a nice day today!」などの提案が出てくるので、それを確認して公開するだけという形に変わりました。

つまり、途中のプロセスはAIが行い、最後の確認・承認は人が責任を持って行うということです。極端にいうと、自分の責任で「勝手に公開していいよ」と設定すれば、公開までAI側で自動でやってくれます。

具体的には、まず翻訳として出てきた内容に対し「75点くらい」、「イマイチなので10点」などとスコアをつけます。特定の用語に別の複数の候補の一覧が出てきたりといったプロセスを経て、最後は人間が確認して責任を取りクリックするという形になります。

それ以外のさまざまなプロセスも作業として依頼可能で、プロフェッショナルな翻訳者などを除けば、99%の人にとっては早く正確に業務を代わってくれるサービスになります。

機械翻訳、プロの翻訳、WOVNによる翻訳を比較

ChatGPTを活用した「AI時代の新しい人力翻訳」

スライドは機械翻訳、プロの翻訳、そしてWOVNの新しい翻訳は何が違うかを表したものです。

まず機械翻訳と人力翻訳は、コストが約1万倍違います。例えば人力の翻訳を翻訳会社に依頼すると、「見積もりは1文字何円でどれくらいになる」といった計算になりますが、対して1万倍の価格差ともなると、機械翻訳の価格はほとんど気にならないレベルであることが多いです。

品質に関しては、プロが完璧にやろうとした場合と相対的に比べたものなので、必ずしも機械が悪いというわけではないですが、スライドにあるくらいのレーダーチャートになります。

それからスピードの差です。人力翻訳しようとすると、まず翻訳したい内容を依頼し、見積もりをもらってから発注し、作業を経て検品するという一連の流れがありますが、これが機械では一瞬で出てくるので大幅な時間短縮になります。

そして、機械・人力それぞれの短所を全て解消するのがWOVNによる翻訳です。

WOVNは2014年からサービス提供を始めたので、今9年が経ちました。9年の間にさまざまな変遷があったことを思い出し、「すごく早いな」と今日改めて実感しました。

Wovn Technologies株式会社 取締役副社長COO 上森 久之 氏

例えば、2016年にGoogleの「ニューラルネットワーク」というエンジンが出るまでは、「Googleって品質悪いですよね」という共通認識で、皆ブラウザで趣味程度に使うくらいでした。

それが「ニューラルネットワーク」が出てから「これはいい!」ということで、皆普通に使うようになりました。

一方DeepLは、元々は対訳のオンライン辞書などのサービスを提供していた企業で、それから2019〜20年頃、「DeepLが流暢ですごい!」と日本や世界で徐々に普及し、個人としてはDeepLを使っている人がすごく多いという状況が生まれました。

そして、昨年からChatGPTが一般化して現在に至ります。

このような変遷があって、特定のどれかを使わなくなるかというとそんなことはなく、新しい選択肢として付け加わっているというイメージです。

先ほどお話したように、Googleは正確でたくさんの言語を翻訳できます。DeepLは流暢なのですが言語数が少なく、抜け漏れがあることがデメリットです。

そして、ChatGPTは翻訳エンジンではないので単純には比べられませんが、各エンジンと合わせて使われていくと予想されます。

もはや、日々新しく出てくる技術を一企業がWebその他の情報を頼りに、どう仕事に活用するか、自分たちだけで選定はするのはとても難しく、多言語対応を専門とする弊社でもキャッチアップするにはかなりのリソースがかかります。

ただ、もちろんそれをやるのが私たちの仕事なので、ユーザー企業様に最新・最適な情報を提供するためにも、日々情報収集に努めています。

なぜなら、私たちの「コアコンピタンス」は多言語化サービスなので、あらゆるWebサイト・アプリケーションを多言語化できるよう、翻訳エンジンについても最先端のものを勉強・吸収しながら提供し、Web開発の必要をなくすことに取り組んでいます。

しかし、サーバー側でAWSを使ったりしているので、そこがまず私たちのライバルになります。

ユーザー企業の皆様も、例えば海外事業部があっても全社売り上げの99%が海外からというよりは、基本は日本での事業があり、他の国々にもいかにサービス提供するかといったスタンスの企業様が多いのではないかと思います。

特に専門性の高い領域では、多分WOVNのコアコンピタンスの力をご活用いただいた方が早く安く便利に翻訳を進めていただけるのではないかと思います。

多言語・多文化理解が遅れている日本だからこそ、多言語化プラットフォームはポテンシャル大!

最後に、欧米に比べ日本は多言語・多文化という観点では圧倒的な後進国です。今日本に住んでいる外国人の数は約300万人ですが、ほんの10年前まであまりいなかったので、例えば三菱UFJ銀行のインターネットバンキングは日本語でしか使えませんでしたが、3年前から英語でも使えるようになりました。

英語の必要性も、私が入社したときにはTOEICのスコアを問われることはありませんでしたが、今後は必須になる時代に一気に変わってくると思っています。

とにかく、こういう多言語・多文化理解の素養がないのが日本だと感じていて、だからこそ、そこを補う新しい技術・サービスは社会に普及していくポテンシャルに満ちているとも言えます。

例えば、中国でQRコードが普及しているのはクレジットカードを簡単に使えなかったからですし、インドネシアでスマートフォンが圧倒的に普及したのも、そもそも皆PCを持っていなかったので、初めてインターネットに接続したデバイスがスマホだったなどの背景があります。

このように多言語・多文化にたくさん課題・困りごとがあり、今まであまり取り組んでこなかった日本だからこその新しい技術を、日本発の多言語化プラットフォームとして広げ、世の中を良くしていけたらと考えています。

スピーカー

Wovn Technologies株式会社|取締役副社長 COO 上森 久之氏
北海道大学 大学院 中退。公認会計士。デロイト・トーマツにて、新規事業/オープンイノベーションのコンサルティング、会計監査、M&A 関連業務などに従事。米スタートアップのカントリーマネージャーを歴任。

関連リンク

https://wovn.io/ja/

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