今回の「海外Hot Info」は、ゴーストリテイラーによって変革されるリテールビジネスについて、株式会社トラストバンクの森杉育生さんにお話を伺いました。
コロナ禍が収束しつつある海外では、EC専業ブランドが続々と実店舗展開に踏み切っている
安田 今回もよろしくお願いします! 今日はどんなテーマでお話いただけるんでしょうか?
森杉さん(以下、Mr.モリスギ) コロナ禍でECサイトの勢いが加速しましたが、ようやく人流が戻ってきつつあります。そのタイミングもあって、実店舗の重要性が改めて見直され始めています。
そこで今日は、「ゴーストリテイラーによって変革するリテールビジネス」をテーマにお話ししていきたいと思っています。
安田 私も実は4年半ほど小売店の店長をしていましたが、実店舗って、運営がとても大変なんですよね。
Mr.モリスギ ECから始まって成長した企業が、さらに顧客リーチを拡大するために実店舗展開に乗り出すことがありますが、安田さんのおっしゃるとおり、実店舗の展開というのはすごく難しい。そこで、実店舗展開をアシストするスタートアップがアメリカを中心に出てきています。
安田 実店舗からECに移行し、また実店舗が見直されているということですね。そうしたスタートアップが出てくることで、今まで以上にスモールスタートで店舗展開がしやすくなりそうです。
Mr.モリスギ そうなんです。2004年にShopify、2006年にAmazonのAWSクラウドがはじまって、サーバの管理が非常に楽になったことや、ノーコードでECサイトを作れるソリューションが登場したことで、2010年くらいからD2Cブランドがたくさん生まれるようになりました。安田さん、EverlaneやAllbirdsってご存じですか?
安田 あまり詳しくはないんですが、聞いたことはあります。
Mr.モリスギ Allbirdsは、日本でもかなりメジャーなD2Cブランドです。サトウキビなどの天然素材でとても軽い靴やアパレルを作っているブランドで、原宿駅の間近に実店舗があります。サスティナビリティにもかなり気を使っていて、今どきのD2Cという感じです。
安田 実店舗って運営がECに比べるとかなり大変だと思うのですが、EC専業ブランドが実店舗を持ちたがる理由って、どこにあるんですか?
Mr.モリスギ 売上が$10M(約1400億円)を超えてくると、オンライン広告で顧客を獲得するよりも、オフラインで顧客を獲得する方が効率的になると言われています。もちろん集客はオンラインより大変になりますが、その分よりロイヤルティが高い顧客を獲得できるのがオフラインの良いところです。そこで、AllbirdsのようなユニコーンD2Cスタートアップブランドも、これくらいの規模になってくると実店舗を展開し始めるんです。
≪安田`s Memo≫
実店舗を持たず、手軽に出店できるECビジネス。しかし、ECだけではいつか限界が来る。その分水嶺となるのが、売上が$10M(約1400億円)とされている。
「買う」という体験が得やすくリピート率が高いのは、やはりECよりも実店舗
安田 やっぱり、リアルでコミュニケーションが取れるのが、実店舗のいいところなんでしょうか?
Mr.モリスギ リアルコミュニケーションの方がリピート率が高いと言われています。
それに、偶然訪れる人の質も高いんです。これはコスメ事業の例ですが、実店舗で購入した人はECの3倍の確率でリピート顧客になりやすいという話もあります。
実店舗への展開というのは、EC専業ブランドにとってはさらに成長するために欠かせないチャレンジと言ってもいいでしょうね。
安田 自分のこととして振り返ってみても、確かにECで買うときって検索して一番安いお店で買うことが多いので、お店の名前もよく覚えていないんですよね。
Mr.モリスギ ネットだと、「これってAmazonで買ったっけ、ヨドバシカメラで買ったっけ?」みたいなことになりがちですよね。Amazonや楽天などのモール出店となると、特にその傾向が強くなると思います。
安田 そう考えると、やっぱり実店舗の方が「買う」という体験が記憶に残りやすい。そう言った意味でも、効率的と言えるんでしょうね。ただ、売上規模が1,400億円以上となると、日本ではかなりハードルが高いような……。
Mr.モリスギ 売上が1000億円というと国内だとメルカリあたりでしょうか。ただやっぱり、ECから実店舗へという流れはアメリカでは顕著になってきていて、2022年には、実店舗の閉店数よりも新規オープン数が大きく上回っています。
安田 効率の高さに加えて、新型コロナが少し落ちつき始めている、というのも要因としてありそうですね。
Mr.モリスギ ヨーロッパもアメリカも、コロナをを必要以上に規制しない体制になりましたからね。
安田 普通の日常に戻りつつありますね。DearOneでも先々月くらいにアメリカに出張に行った方が、「誰もマスクなんてしてないし普通だよ」って言っていました。
Mr.モリスギ 行動制限もありませんし、「コロナにかかったら頑張って薬飲んで治してね」みたいな感じで。日本も5類相当に下げられたら、おそらく似たような状況になるかもしれません。
安田 そういった背景もあって、日本よりも一足早く、実店舗展開の流れが起きているというわけですね。
≪安田`s Memo≫
オンラインコミュニケーションに終始してしまうECは運用が楽な一面はあるが、やはり実店舗の方が顧客体験の質が高く、リピートにつながりやすい!
実店舗展開を支えるスタートアップ事例 ①変革されるリテールビジネスキュレーションショップ型: b8ta(ベータ)
Mr.モリスギ ただしEC専業ブランドが実店舗を持つメリットは大きいとは言っても、実際に店舗を持って運営するとなると、ものすごく大変ですよね。素人の僕でも、少し考えるだけで嫌になるくらい面倒だと思います(笑)。人間が関わるところがかなり増えますから、考えるだけで大変そうです。
そこで、こうした実店舗を持ちたい人たち向けにソリューションを提供するスタートアップがいくつか出てきています。
1つめが、b8ta(ベータ)です。以前、下記の記事で紹介したスタートアップで、ショールームのような形で家電系のガジェットを実際に触ることができるプレゼンテーションストアです。
こちらは次回記事で取り上げるゴーストリテイラーとは形態が違いますが、ショールームの一歩手前でミニマムに実商品の露出を上げたい場合には向いています。https://note.com/embed/notes/n3e040684a842
安田 実際に店舗で買うこともできるのでしょうか?
Mr.モリスギ ユーザーが商品を欲しくなった時には、店舗に設置されている端末やスマートフォンを使って、オンラインで購入できる仕組みです。
安田 その場で商品を持って帰ることはできないんですね。売上を伸ばすためのお店というよりは、実際に商品に触れられるという体験を提供しているようなイメージですか?
Mr.モリスギ そうですね。立地のいい場所に出して商品やブランドの認知を高めることと、マーケティング的なフィードバックを得ることが主な目的なんだろうなと思います。ビジネスモデルもEC売上ではなくて、商品をb8taに出店している企業からお金をもらっている形になっています。ちなみに日本でも展開されていて、渋谷、新宿、それから越谷レイクタウンにもお店が出ています。
≪安田`s Memo≫
b8ta(ベータ)は店舗をショールーム化し、直接売上を上げるのではなく、顧客に商品に触れてもらうことで体験するコストを下げ、オンライン購買へ誘導している
安田 今回もありがとうございました! 次回は、今回の続きをお話いただく予定です。
Mr.モリスギ 次回は、スタートアップ企業として2つ紹介したいと思っています。次回もよろしくお願いします!
―次回の【海外Hot Info】では、「ゴーストリテイラーによって変革されるリテールビジネス」について、引き続き森杉さんにお話を伺います。次回もぜひお楽しみに!