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【Growth Meetup】#2 本編「グロースマーケティング実践のコツとは?」

2022.04.25

多様な業界から集まったフェローが濃密な議論を交わしました!

2022年3月16日(水)18時、各分野の最先端の現場で活躍するトップランナー「フェロー」と自由に意見交換ができるユーザー参加型オンラインイベント「GrowthMeetup」の第1回目が開催されました。

今回はイントロ編に引き続き、本編をお届け。「グロースマーケティング」について意見を交わしましたので、その様子をレポートいたします。

議題1 なぜグロースマーケティングが必要なの?

Growth Meetup1

三石 本日のプレゼンを担当させていただきます、株式会社DearOneの三石(当時)です。よろしくお願いいたします!

フェロー全員 よろしくお願いいたします!

三石 本日は、「①なぜGrowth Marketingが必要なの?」「②おさえるべきポイントは?」「③実践のコツは?」に対して、それぞれ紐解きながらお話したいと思います。

まず「①なぜGrowth Marketingが必要なの?」に関しては「今までのやり方をやっているだけでは厳しくなりつつある」からです。具体的に必要な理由は、大きく分けて5つあります。それぞれ、細かく説明させていただきますね!

Growth Meetup2

テーマ1:情報の分断(Silos)

情報のため方と持ち方がバラバラ

・情報の所有部門と、 情報の管理部門が一元化できない(部門別に目的が異なる)

・個別システムの乱立により、 分析時の整形加工業務負荷が大きい

共通IDによる顧客情報の統合管理機能の欠如

・1st Party Dataの重要性の高まり

三石 1つ目のテーマは「情報の分断」について「情報のため方と持ち方がバラバラになっている」という課題ですね。情報の所有部門と、情報の管理部門が一元化されていない、各所に散らかった情報を整理するのに負荷が大きいという問題です。
1st Party Data(自社の顧客情報)を持とうという動きは非常に高まっていますが、実際にはなかなか追いついていないなと感じています。

テーマ2:経験と勘の世界(Intuition is not enough)

想定外 新たな購買行動

・コックシューズがレインシューズに

・ガリガリ君がランナーのアイシング

OMO時代の顧客行動

・D2Cの加速によるチャネル横断消費

・タイミングとシチュエーションの使い分け

画一的なアナログ調査の限界

・マクロ潮流は全量データ分析で

・ミクロの状態把握はN1分析で

三石 2つ目は「経験と勘の限界」です。マーケターの経験の幅は非常に重要なものの、その経験や勘だけでは想像できない購買行動も起きています。
たとえば「ガリガリ君がランナーのアイシングに使われる」「食器洗浄機がプラモデルの乾燥機として使われる」などですね。

そういう想定外な購買行動を、いかに予測していくかが課題です。

現在流通経路は複数に渡るので「顧客を多様的に捉える」のがポイントになってきます。あとはユーザーのことを知るためにアナログ調査だけに頼ってしまうと、ユーザーのログは見られないので正しく行動を捉えられないというのも、経験や勘の限界になっていると思います。

テーマ3:状況が瞬時に変わる(Landscape changes overnight)

突発的な大ヒット

・Pockemon Goは8日で1億人

(インターネットは10年間で1億人)

成功している企業の学習回数

・有力企業は年間1000回以上を学習

・メルカリは8日に1回アプリを更新

PDCAでは競争に勝てない

・脱オンプレ・ウォーターフォール

・Sweet型からBest of breed型が主流に

三石 3つ目は「状況が瞬時に変わる」です。インフラやクラウドの環境が整っているため、いきなりメガヒットが生まれるようになったのです。たとえば、Pokemon GOがユーザー数1億人に達するのにかかった時間はたった8日間。Pokemon GOが異例とはいえ、瞬間的なヒットが生まれやすい状況にあることは間違いありません。

もう一つの現象として、成功している企業の学習回数が増加傾向にあることです。有力企業は年間1000回以上も市場にサービスを投入していると言われており、プロダクトグロースの成功例としてよく挙げられるメルカリもだいたい8日に1回アプリをバージョンアップしているそうです。このように、常にサービスの改善・改良を重ねていくのが成功企業のスタンダードになりつつあります。

また考え過ぎずにどんどん施策を打っていくことが重要になってきています。PCDAサイクルでは時間がかかりすぎて、競争に勝てなくなってきている。このように、状況の変化が加速化していると考えられます。

テーマ4:顧客ニーズの多様化(Diverse customer needs)

三石 4つ目が「消費者のニーズの多様化」です。ここでは、パーソナライズが成功の鍵となってきています。特に重要だと思うのは、ファーストタイムユーザーエクスペリエンス(略してFTU)と言われる概念です。これは最初の体験でユーザーが「いい気持ち」にならなかったら、その後(Webサイトやアプリに)来ないという考え方です。

また「豊富な商品群・サービスがあり、選びきれない」というユーザーにいかにレコメンドしてあげるかもポイントです。さらに、顧客に手間をかけさせないための「顧客努力の低減」を考える必要もあります。

またユーザーの行動をファネル分析した時に、せっかく来てくれたのに行動が起きなかった部分など、きちんと脱落ポイントをつかむことが重要かなと考えています。

テーマ5:結果に一喜一憂(Confused by vanity metrics)

Growth Meetup3
三石 剛由GrowthLab所長(当時。左、専門分野は「グロースマーケティング」)

三石 最後は「結果に一喜一憂」です。KPIやKGIなど結果の数字だけ見て一喜一憂しても意味はありません。その先行指標のどの数字を目指した結果なのかを定義できないというのは、実は根深く大きな課題かなと思います。

グロースマーケティングについてのフェローの意見

私たちは、これらの課題にどう向き合って、課題を潰していくかを考える必要があると思っています。フェローの皆さんのご意見もいただけますと幸いです。

笹原 「情報の分断」に関しては、大企業の人たちからすれば、会社の規模が大きいと組織も役割も細かく分かれていて、どんどんミクロになっていっていると感じているのかなと思います。だから、私達のようなその間に入れる触媒みたいな人や組織が外にいることを伝えていきたいですね。

優しくドアを叩いて開けてあげるか、もしくはこじ開けにいく(笑)。そういう存在でありたいです。

清水 「経験と勘の限界」という話もありましたが、新聞やテレビといった既存メディアも、マスではなくパーソナライズの方向に向かっているのは事実です。今までも深夜番組で「いかにニッチな視聴者層にアプローチするか」という視点での制作は行われてきましたが、それが深夜帯以外でも強化されています。

しかし、パーソナライズ化が進んでいるからパーソナライズに親和性の高いネットメディアの方が価値が高まっていると思いがちなのですが、面白いことに今アメリカのテレビの広告費は上昇しているんですね。

清水俊宏
清水 俊宏さん(右から二番目、専門分野は「マスメディア」)

三石 意外ですね!

清水 そうなんです。これだけネットのコモディティ化が進んできたため、逆にテレビが一番安心して見れるコンテンツだと再認識されるようになってきました。またNetflixに入って、Disney+にも入って……といった「サブスク疲れ」も起こっていると聞きます。

現在は各個人が観たいものに寄り添ってコンテンツを作ることが重要視されています。ただそうしていくと、「同じコンテンツばかり見たくない」といった反応も出てきます。そこからは、本当にコンテンツを作る社会的な意義は何なのか、みんなに何を見せるべきなのかという点に寄っていく必要があると思います。

河上 三石さんに続き、僕からも皆さんに質問させてください。「経験と勘」について語る際、議論の結論が「ハイブリッドする」という言葉でマージされていくパターンがよくあると感じています。
これだけデータの時代に突入しているので、勘や経験は淘汰されてデータのみになるのか、人間の勘や感性も含めてデータと合わせて活用していくハイブリッドがいいのか、皆さんはどう考えているのかを知りたいです。Mr.マーケッターの菅さんはどうですか?

河上純二
河上 純二さん(左から二番目、専門分野は「人脈・ネットワーク」)

菅 さっき「経験と勘の限界」という話がありましたが、経験と勘とデータ、それぞれを使わなければいけないと思っています。そういう意味では、ハイブリットなのかもしれません。

先ほどの三石さんの話にあった「ガンプラを食洗機で乾かす」という消費者行動についても、なぜその行動をしているのかは、人を洞察しなければ出てきません。そこには経験や勘が非常に役立つと思います。それは、当てた勘だけでなく外した勘も含めてです。

菅恭一
菅 恭一さん(中央、専門分野は「マーケティング」)

これまでは経験と勘だけに頼り、勢いでいっていた部分が大きかったのだと思いますが、それだけに頼るのではダメだと思います。その経験と勘をもとにアイディアや仮説を出したものを、今度はデータを使って定量的に筋を測れるじゃないですか。だからデータも必要だし、データがあるから余計に「経験や勘」が生きるんだろうなと思って聞いてました。

議題2  グロースマーケティングを行うにあたり、押さえるべきポイントは?

三石 皆さん、ありがとうございました。ここで議題2に移りたいと思います。議題2は“グロースマーケティングで押さえるべきポイント”です。

グロースマーケティングで押さえるべき3つの要素

知る

・打つ

・企てる

Growth Meetup4
Growth Marketing 3要素

三石 「知る」の行動分析は、いわゆる性別や年齢などを分類基準にするデモグラフィック、趣味嗜好などを分類基準にするサイコグラフィックといった手法です。ただし、これだけだとなかなか見えてこない情報があります。

これを行動レベルで分析すると、情報の解像度が非常にクリアになります。たとえばデータドリブンでECサイトやネットサービスを継続利用するユーザー行動、購入単価高いユーザーの行動、LTVが高いユーザーの行動の特徴とかのデータを取るといった分析です。

また、Web×アプリ×実店舗という3つのチャネルがクロスしている一人のユーザーの購買行動を、しっかり分析していくことが大切です。

たとえば、僕がユニクロのオンラインショップ、アプリ、店舗でそれぞれ洋服を買ったとします。このような購買経路をトータルでどう使い分けているのかを分析にかけ、そこに勝ちパターンがあるかを見定めていくことが大切です。
この「ゴールデンパス」とも呼ばれる勝ちパターンの経路を、しっかり見ることがマーケティングの成功確率を高める上で重要です。

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「打つ」のところは「学習」にあたります。いわゆるPDCAサイクルやOODAループといった従来型のフレームワークから、「仮説」「実験・学習」「情報共有」「ロールアウト」という要素から構成される「グロースエンジン」というフレームワークへの移行が必要になってきていると考えます。

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いきなりデータドリブンで動かすのではなく、経験と勘などで仮説を立て、その後に実験・学習で検証していく。この組み合わせでこれを早く回す仕組みを、我々はグロースエンジンと言っています。

これを導入すれば、企業の学習回数が飛躍的に伸びます。ここに挙げている大企業は、年間1,000回程度の学習を行っているのです。

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三石 最後に「企てる」についてです。「企てる」にはノーススターという概念が注目されています。分析を行う場合に、KGIの結果、間接的な指標としてPV数、セッション数など様々な指標がありますが、重要なのはどの数字を追っかけて頑張ると成功するのかという点です。

闇雲にいっぱい指標をつくらずに、一つの指標を作ろうというのが重要になります。しかし、その一つの指標を作るのが結構難しい。こうした計測すべき最も重要な単一の指標のことをノーススター・メトリックと呼んでいます。

具体的な製品パターンで言うと、SpotifyやNetflixなどのオンラインコンテンツのようなアテンション型(attention)の製品・サービスの場合は、有料会員一人当たりの月間視聴時間、AmazonやウォルマートといったECサイトなどトランザクション型(transaction)型の製品・サービスの場合は、1訪問ごとの購入数、あとはSalesforceやEvernoteのようなクラウドサービスとかB2Bのようなプロダクティビティ型(productivity)の製品・サービスの場合は、1アカウント毎のレコード作成数、といったような指標がノーススターメトリックの設計パターン例になります。

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三石 また、Facebookは「登録から10日以内に7人以上の友達になる割合」と、その後8割ぐらいが定着するといったユーザー視点の指標設定があります。

この他にも、Mediumなどのメディアのサービスの場合は「記事内の合計滞在時間」、salesforceの場合は「レコード保存数」、NETFLIXの場合は「60時間/月以上視聴した有料ユーザー数」などが目指すべき指標の例としてあげられます。これら単一の指標を、マーケター、オペレーター、経営者、開発者といったそれぞれの役割が、同じ視点で追っかけることが大切なのです。

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三石 これがPLG(プロダクト・レッド・グロース)といわれる考え方です。PLGは、プロダクト自体をちゃんと見ることがグロースに繋がり、導いてくれるという言葉です。

今までのように製品を作ったら広告プロモーションで売ると言うことではなく、製品自体にファンが作られ、ファンがファンを呼び、そしてユーザーからの意見をもらいながらさらに磨きこまれるというマーケティングの在り方がPLGと言われており、我々もこれが非常に大切だと考えています。

クロスマーケティングについてのフェローの意見

高山(司会) ここで説明したクロスマーケティングの三要素の「知る」「打つ」「企てる」について皆さんのご意見をお聞かせいただければと思います。

菅 ノーススターって、どこにいても見落とすことがない北極星のことですよね? とても面白いですね。そこに行くための数値、指標としてのノーススターという考え方。これが一緒になると働いてる人も幸せだろうなと思って聞いてました。

三石 ありがとうございます。マーケティングは、答えが割とないなと日頃思っているのですが、まさしくいろいろな角度で考えることが重要ですよね。

高岳 ノーススターというのは、平たく言うと顧客満足度のことだと私は思ったのですが、飲食店だったらお客様が「このお店に来て良かった」と思ってもらえるかどうかということですよね。

高岳史典
高岳 史典さん(中央、専門分野は「レストランテック」)

飲食店の顧客満足度では、よく「美味しい飲食店」と「好きな飲食店」という話が出ます。「美味しい飲食店」は、数にしても質にしてもキリがないですよね。ミシュランガイドで星いくつかみたいな話で。それに対して「好きな飲食店」は、人によってそれぞれ違います。

僕たちも、お客様に「好き」と言ってもらえる店にしていくことが大切なんだと考えています。「好き」を目指すと、料理だけでなく、スタッフの接客態度やお店の内装や調度品などにも、様々な配慮やこだわりが必要になってくる。さきほど成長に大事なことを一言でという問いに「モテたいと言う気持ち」と答えたのですが、これは「お客様にモテたい」と考えた時に、そのためには、何をしていけばいいかということ。そのために従業員すべてが動き出すということになります。

石川 身も蓋もない話をするとケースバイケースだと思います。とにかく数打って、打った分だけ売上が上がっていくっていうフェイズや施策もあるし、そこにコストをかける妥当性が本当にあるのかという状況もありますので。
僕が心がけているのは、どのような形で事業を回している場合でも、最低限の検証は出来る環境は作りたいなと思っています。結果がいい感じであれば、それ以上深掘りして検証の方に時間をかけず、そこのコストを施策の数を増やす方にまわします。投入している施策については、悪くないとは思ってるからやってるんですけど「なんか芯を食ってないな」と感じる時もあるので、その時によって施策を「打つ」バランスを変えています。

議題3 実践のコツは?

高山(司会) 続いて最後のセクションです。

三石 具体的な施策を打つ時にですね、我々はデータ活用の4Stepを、きちんとやることが重要だと思っています。

データ活用の4Step
データ活用の4Step

三石 この後、リアリティをもった経験談として皆様にお話を伺いたいなと思ってますが、あくまでフレームワーク的な話として説明をお聞きいただければと思います。

データドリブンマーケティングなので、まずはデータをしっかりとためる。たまっていない企業が本当にたくさんあるので、これを実行していきます。そしてためた後、整えて使える状況にしていく。一人のユーザーがオンラインとオフラインどういう状態なのかを「分析する」。分析した後にエグゼキューション(プロセスの実行)で「つかう」。この4ステップをちゃんとやることが重要です。少しづつ浸透してきていると感じる一方で、まだまだ課題もあると思っています。

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三石 我々DearOneもSaaSという形式でツールを提供していますが、ツールだけで全てが解決する訳ではないと思います。データ設計・整形からの実行体制づくりは、価値をつくる上でポイントなのはツールと人のセットで行うことだと思います。むしろ、ツールよりも人の部分が課題になるかと。

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三石 人に関する課題というと、体制づくりにプロフェッショナルが必要だという話で終わりがちなのですが、特定の個人に偏らず、それをいかに文化として組織として根付かせるかが、大きくスケールさせていく時の鍵になると考えています。

最後に、我々のパートナーであるAmplitudeさんのスライドを見ていて面白いなと思った引用があったので紹介します。

グロース・マーケティングにおいても、何が論点なのかを定めた後に行動することが大切だと思います。そのためには、我々が行っている4STEPのような環境整備をしていかなければならない。いかに事前に、問題に対するテーマ設定を定義するかが重要なのだと我々は考えています。

Growth Meetup12

これらを踏まえて、テーマ設定、環境整備、それに対する人の実践力の強化も大切だと思います。

グロースマーケティング実践のコツについてのフェローの意見

田島 私の会社には現在様々なチームがあって、各部署で取れるデータがそれぞれあります。もちろんそのデータはためているのですが、やはりチームごとに、データをためる質や、データを取り出す工数にバラつきが生じます。
「データ活用の4STEP」でいうと、データをためるだけではなく、そのデータを全社的に整えていって、更なる土台となるようにブラッシュアップし始めているというのが今の当社の状況です。

データ活用の4Step2
「データ活用の4STEP」

具体的には、今後の3年未満で全部署にデジタル・アダプテーション・プラットフォーム責任者とデータオペレーション責任者を据えようと考えています。

田島智也
田島 智也さん(専門分野は「HR・エデュケーション」)

デジタル・アダプテーションは、各部署のデータを横断して統合させていく役職として、強いミッションを持ってDX化の陣頭指揮をとる役職のイメージです。

データオペレーションは、データをもれなくためていく人が必要なのでそこに対する採用と、既存のメンバーへのリスキニングなどを課題として対応していく役職のイメージです。また、現在もCTOがいるのですが、あえてDX推進室室長を置いて、旗振りも分かりやすくして分析も使うというところを加速させ始めています。

半田 株式会社BOARDWALKでいうと、電子チケットから取得したデータを使ってライブの公演データを作ったりとか、先ほどのECサイトへつなげていくといったことも実際に行っていますが、そういうことをやりながらも意外に課題はリアルな現場にあると感じています。入場口で公演時間ギリギリになっても、入場が全部行き渡りませんみたいな、入場口でのオペレーションに大きな課題があるのです。

半田勝彦
半田 勝彦さん(専門分野は「インキュベーション」)

また、PEACSという出版事業の方も同様に現場に課題があったりします。雑誌は現在、非常に儲かりづらいビジネスになっていますが、管理会計も一生懸命やっています。データのところでも、表紙をこういう風にしたら売上が上がったとか下がったとか、付録の有無や内容、定価の価格調整といった側面でデータを取っているのです。

ただし、最後に実際の紙に落とし込む時には、やはり現場のリアルな企画が重要になってくると思います。そうした企画が成功して、すごく売れることもあります。

先ほど、経験や勘とデータのハイブリッドという話がありましたが、色んな課題とか取り組みに対してデータを駆使しながら分析し、最後はリアルなところで、経験と勘も活用していく、それらが全て一致して上手くいくのではないかなと思います。

三石 サービス自体の導線がイケてないと、データドリブンも何もないよねということですよね。

半田 アマゾンみたいなECも、最後は物流というリアルな部分が重要になってきます。データは、整えば整うほどコモディティ化してくるので、そこからが勝負ではないでしょうか。

村上 次は僕ですかね。僕は元芸人なのですが、僕たちの年代のNSC(吉本興業の芸人養成スクール)って、みんなダウンタウンに憧れてお笑いの世界に進んだ世代でした。

そういう世代は、ダウンタウンの漫才スタイルを皆追いかけていて、世間的にもそれが面白いという傾向が約20年間続きました。ですがその傾向が、第7世代という若い世代が登場してきたことによって、変化が起き始めているのを感じます。

彼らは「人との協調」を重視したり、たとえば「容姿をイジるような笑いはしない」といった時代に合わせたポリシーを持っているような気がします。

スタートアップやベンチャーの世界でも、大企業や有名ベンチャーの強烈な成功例があると、それに強く影響されがちなのですけれども、お笑いの第7世代のように、自分達のやりたいスタイルを貫いていくハートの強さや、文化を広めるというか流れを作るといった気概は必要かなと思いましたね。

村上崇
村上 崇さん(専門分野は「広報・PR」)

笹原 いま皆さんのお話を聞いて文化に関連した話を思い出しました。私は、NTTドコモ・ベンチャーズに来る前は、NTTドコモの中で新規事業社内起業家を育成して行くプロジェクトに関わっていました。でも、それがなかなか上手くいかなくて、リクルートさんやサイバーエージェントさんに訪問していろいろお話を伺ったのです。

ただその中で、こうした文化は、うちの会社ではできないなと思ったのです。社員の構成、個々の社員のキャラクターが違うということももちろんあるのですが、会社に流れるカルチャーが起業家精神が旺盛な会社と、しっかりと地道にやっていく人たちが多いわたしたちNTTでは全く違うということに気づき、いろいろと腑に落ちたのです。文化というものは、自分達でやり方で作らなければいけないのだと、その時痛感しました。

笹原優子
笹原 優子さん(専門分野は「オープンイノベーション」)

高岳 ベンチャー企業は、お金を調達すると仲間を募集しますよね。でも、仲間を募集するって少し言葉がおかしくないですか。仲間は「探す」ものだと思います。『ONE PIECE』でもそうですが、ルフィは仲間募集してないですよね。カルチャーを作っていくのであれば仲間を探すことが大切だと思いますね。

三石 どの方のお話も、とても本質的な回答でためになります。ありがとうございます。

視聴者の方からの質問&フェローの回答

高山(司会) 視聴者の方から質問が来ておりますので回答をお願いします。まず石川さんへ「施策が『芯を食っている』かどうかはどうやって判断するのでしょうか? まさに経験と勘+データということでしょうか?」という質問が来ています。

石川 「経験」と「勘」と「データ」の話で言うと、僕はレイヤー構造だと思っていて、データの方が今は前提条件かなと思います。データがたまって、そこをベースに施策を打てないと勝てないと思うのですが、それだけでも多分勝ちきれない。最後に、差別化し有意差が出るのは、やはり経営者やマーケッターの経験や勘みたいなところかなと感じています。

「芯を食っている」というのは、経験とか勘の要素の話なのかもしれません。他の人が同じデータを見ても、僕と同じに感じるかどうかはわからない。それはチームメンバーを見ても感じるところです。そう言う意味でも「芯を食った」かどうかの感覚は、大事な要素ではないかと考えています。

石川森生
石川 森生さん(専門分野は「EC・D2C」)

高山(司会) 最後にフェローの皆さんに「最近ビジネスやご自身について、グロースを感じられたことはありますか?」という質問が来ています。

半田 今の会社に入ってからまだ5年ぐらいで前職は16年くらいでしたが、広告会社から投資やコンサルティングと業種を移ってきて世界観がすごく変わってきました。そういう環境が変わったという点でグロースはすごく感じています。同様に投資先の新しい会社に入らせていただくと、それぞれ共通した課題もあれば、まったく違った課題もある。またカルチャーも各々違い、それらの経験を通じて苦労しながらもグロースをすごく感じています。

田島 ここ約2年で人が増えたので、以前と比べると本当に会社組織になってきたと感じます。経営や人事改革をしている段階なので、特にこの1年はすごく勉強しましたし抜本的に改善して会社を動かしている感じがあります。事業づくりと、その次の組織デザインといった部分が自分としてはさらに楽しいですし、やりがいにもなっています。すごく違うステージの目線で会社や事業を見れているなという成長は感じられていますね。

石川 おかげさまで、日々自分でやってるビジネスは非常に伸びています。ここ数年で立ち上げた事業も、かなり順調です。

ただ、僕自身の成長って何だろうと思いました。僕自身はヒットメーカーではないと最近気づき始めていて、どちらかというと勝てるビジネスの匂いを嗅ぎ分ける能力が違っていたのだなと感じています。正直、僕らがお手伝いしても厳しいなという事業に関しては、最初に反応しています。やはり、何年か前に仕込んでる事業は、確実に勝てると思っていて引き受けているので、選球眼がついてきてるグロースはあるなと思いますね。

河上 最近、特に50歳を超えてから「淳二さんめちゃくちゃ若いね」と言われることが増えてきました。最初は照れ笑いして誤魔化していたのですが、それは若い方や輝いている方に囲まれている環境に自分をもっていけているからだと思うようになった。もし、僕が老けてきたら、環境が変わったんだなと思ってください(笑)。

笹原 昨年6月に代表になったのですが、経営側にまわったので強制的にグロースモードに入ったと思います。ただ、追われるように仕事をするとどうしても吸収できないので、先回りをすることで自分の学びに変わってきていると感じます。なので、できるだけ先回りして更なるグロースをしていきたいと思います。

清水 こうして代表取締役の方々に囲まれて活動していること自体が、常にグロースしていると感じます。

5年前に、YouTubeでニュース動画を始めたときに、動画の冒頭でアナウンサーが喋ってる部分は無駄だから、最初に強い映像で入った方がいいというアドバイスがありました。これは、間違いなくそうだった。ただ、徐々にそういう動画が増えすぎて目新しくなくなり、ここ最近は逆にTVと同じように冒頭部分でアナウンサーがしっかり喋っている動画をよく見かけます。
こうした見せ方の手法のトレンドは、一年単位でどんどん変わっています。だから、これもダメ、あれもダメとなんでも数字を見てすぐ決めるのではなく、自分たちのやり方やポリシーを貫くことも大事だなと思うのです。

こうした試みは、最初は「勇気」が必要ですが、「勇気」を持つだけで無下にされることもないし、成功や失敗が経験として積み重なっていきます。これからも皆さんと一緒にいろんなことにチャレンジしてグロースしていきたいと思います。

菅 最近気づいたことで言うと、うちの会社はグループ全体で20人前後の規模なのですが「自分の力でグロースしない」ことが面白いなと思い始めています。

以前は僕が自社の事業を作り、お客さんも連れてきて仕事をする、メンバーは、そのやり方を踏襲するというスタイルでした。

それが3年前にデジタルマーケティングにおけるデータ活用の会社を分社化した結果、今はどちらかというとプライバシーガバナンスとかいわゆる消費者主体のデータ活用のあり方を作る会社に変化しています。同じデータを扱っているのですが全く違う形になり、今そこに引き合いがたくさんきているのです。

こうした成長の在り方は、僕は描いていませんでした。そういう自分が想像しないグロースが生まれる設定や環境を作るのが、結構面白いかもと思い始めています。

だから、僕が見てる会社も今年からいわいるObjectives and Key Results(OKR)の仕組みを導入しました。今回の話でいうと僕はノーススターだけ決めて、あと皆で話し合って目標も勝手に決めて行ってねというスタイル。そこから何か僕が想像しないグロースがまた出てくるのかなと思っています。その辺が面白いですね。

高岳 グロースしている実感はあまりないのですが、心がけて“場”を持たないようにしています。自分の自己紹介をするときに、昔自分が何をしていたかは言わない。そうすると、逆に若い人も、年上の人も、いろいろな話をしてくださいます。おそらく、私が過去の経歴をひけらかしたら聞けることも聞けなくなるんじゃないか、そんな感覚があるんです。ですから過去の肩書きのようなものを無くしていけているのが、多少グロースにつながってるのかなと思います。

村上 この2年の間、コロナ禍で強制的にグロースせざるをえなかった状況がありました。最初はコロナの影響で業績も落ちたのですが、メンバーそれぞれが判断することが増えて成長したように思います。僕自身も確認事項が減ったので、ここでは話せないようなことを家でコソコソやってるだけで会社が成長していくといった素晴らしい状況が生まれましたね(笑)。

高山(司会) 皆様、ありがとうございました。最後に三石さんから今後のお知らせがあります。

三石 本日一回目ということで、進行が不慣れな中でご迷惑もおかけして大変恐縮ですが、色々な学びもありました。本当にありがとうございました。