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Web2とWeb3の欠点を補完する技術!Web5とは何か その中心3要素とは【海外Hot Info】vol.38

2022.10.11

今回の「海外Hot Info」は、「Web5」が生み出すインターネットに必要な新たなアイデンティティの概念について、株式会社トラストバンクの森杉育生さんにお話を伺いました。

Web2とWeb3。それぞれの問題・制約を解決するWeb5!?

安田 今回もよろしくお願いします! 今日はどんなテーマでお話いただけるんでしょうか?

森杉さん(以下、Mr.モリスギ) 今日はちょっとわかりにくいテーマなのでなるべく丁寧に説明したいのですが、「Web2とWeb3の欠点を補完する技術!Web5とは何か –その中心3要素とは」をテーマにお話ししていきたいと思っています。

Web5

インターネットの世界では従来、Web2には「プラットフォームごとにアカウントを作る必要性があり相互運用性がない」ことなど、アカウントやプロフィールにまつわるアイデンティティの共通概念がすっぽり抜けているのではとの指摘がなされてきました。

一方、Web3でも「アカウントは相互運用できるが、行動原理として必ずトークンを紐づける必要があり、これが制約となっている」など別の問題があります。

これらの解決手段として「相互運用でき、検証可能で、他システムから独立している分散型アイデンティティの概念と実装を行う必要があるのでは」との議論が生まれ、ソリューションとして、Twitter社の共同創設者兼元CEOであるJack Dorsey率いるBlockが提唱する「Web5による分散型アイデンティティ」の概念が登場してきました。

安田 初っ端から色々難しそうですね…。そもそもWeb2やWeb3って何だっけ、というところから振り返ってもらっていいですか?

Mr.モリスギ はい。まずWeb2ではGoogleやAmazonといった強いプラットフォーマーがいて、課金や決済に関してもユーザーは基本的には決められたものしか使えず、また中央集権的なサーバやアプリ構造であるためサービスがダウンするリスクがありました。

これに対し、Web3では「ウォレット」と呼ばれる一種の「鍵」を用いることで、自分のしてきた行動の履歴・記録が簡単にわかるのが特徴で、決済をはじめブロックチェーンに記録されてきたさまざまなトランザクションを、プラットフォームを超え一元的に管理できるのが強みです。

またWeb3のサーバは、ブロックチェーンを使った分散化された数千台のコンピュータのネットワークで支えられているため、たとえ1台が停止しても全体がダウンすることはありません。以上については、以前にも こちら の記事で紹介していたのでおさらいの内容ですが…。

安田 なかなか複雑な内容ですし、まず本記事から読む方もいると思うので助かります。

Mr.モリスギ Web1でのアカウント管理はもっぱら、ユーザー名やパスワードを用いる形式でしたね。Web2ではGoogle、Facebook、Twitterといったプラットフォームアカウントによる管理が主流になり、みなさん日常的に使われていると思います。

それがWeb3では「メタマスク」などがアプリとしては有名ですが、ウォレットというブロックチェーンと接続するための「鍵」を用いて管理する形になりました。このように、各フェーズによってアカウントの概念が異なっているわけですが、Web2やWeb3が普及してきた現在、まださまざまな問題があります。

安田 ここは少し確認したいですね。Web2とWeb3の違いをもう少し詳しく教えていただけますか?

Mr.モリスギ はい。例えば、何かサービスがあるときに「その会員のデータ(ベース)がどこにあるか?」という点に着目するとWeb2ではGoogleなどプラットフォームのサーバに置かれることになります。

これに対し、Web3ではデータベースの独占は良しとされず、皆の共有物であると捉えられています。その概念が実現されたのがブロックチェーンですね。分散型の公共データベースです。そのデータベース中で、特定のアクションを「自分が行ったものだ」と認証・証明するための機能がウォレットになります。

言い換えると、Web2ではプラットフォームによってデータベースとアイデンティティが管理されている状況だったが、Web3ではブロックチェーンの登場により「アイデンティティがユーザー側が管理できるようになった」とみなされている、というわけです。

≪安田`s Memo≫

データベースとアイデンティティをプラットフォームが管理していたWeb2から、データベースが共有されるWeb3になり「アイデンティティをユーザーが管理できるようになった」と認識

記録・検証・移行が容易なWeb3

安田 なるほど。「アイデンティティ」というキーワードが出てきましたね。

Mr.モリスギ はい。アイデンティティという観点での、現在のインターネット(=Web2)における問題点は、

①アカウントとそれに紐づくデータの正当性の検証が難しい

②アカウントとそれに紐づくデータに互換性がない

の2つになります。

具体的にいうと、例えば世間にWantedlyやLinkedInといった、自身のキャリアについて書き込む各種SNSがあると思うんですが「その実績って本当なの?」「本当に達成したの?」って証明するのは難しいですよね。

安田 確かに、なかなか前の会社であった細かいことまではわかりませんもんね。

Mr.モリスギ バックグラウンドチェックという方法もありますがコストもかかるし、採用のとき以外にはなかなか実施しないですからね。これが①の問題点です。②の問題点は例えば、Twitter上で自分が書いたプロフィールや投稿を、簡単にFacebookに持っていくことはできないし、逆もまた然りということです。

このように、データは基本的にプラットフォームの世界の中で閉じられていて、他の場所に移行したくてもできないという限界があります。Web1の時代には、ブログメディアなどの移行に際し、XML形式で書き出すことで他のブログにインポートすることができたりもしましたが、現在の巨大プラットフォームは囲い込みが命のため基本的に互換性がなく、そういったことができない。「自分で作ったデータなのに、何でこんなに自由が利かないんだ」というところがユーザーの観点上、問題があるというわけです。

安田 よくわかります。プラットフォーム上で作ったコンテンツって、簡単に他のプラットフォームに転用できると、プラットフォーム側としては流出しやすいというデメリットに繋がるわけで…。

Mr.モリスギ そうですね。スイッチングコストを下げることになってしまう。

安田 そうですよね。だから、プラットフォーマーはスイッチングコストをあえて上げている、というのが現状なんでしょう。

Mr.モリスギ はい。でも、それはユーザー側からしたら嬉しくない。Web2において、このようにユーザーメリットとビジネスメリットがぶつかっている状態というのは、理想的なシステム設計とは言えませんよね。

これに対しWeb3では、トークンやNFTなどをどのタイミングで取得したり手放したりしたのか、といった記録トークンなどのデータがブロックチェーン上にトランザクションとして残っています。例えば、先ほど挙げたWantedlyなどの例で言えば、「資格に受かった」「皆に評価された」などの記録に関しても、ブロックチェーン上に自身の活動記録としてすべて残しておくことで、後から検証することが可能になります。

安田 NFTの資格取得証明書があれば、それは誰にも改ざん不可能ですもんね。

Mr.モリスギ そう、「この資格を取得したのは確かに安田さんだよ」という客観的な証明になります。これにより①の問題をクリアします。

そして、データ移行に関しても、同じウォレットを使うことで、異なるプラットフォームに持っていくことが可能になります。問題点②の解決ですね。そうした記事のインポート/エクスポートが可能なことを売りにしているサービスもありますし、以上のようなことがWeb3の世界になると普通に確立されるんです。

安田 それなら「もうソリューションはWeb3でええやん」という声が聞こえてきそうなものですが…。

≪安田`s Memo≫

Web2の限界を超えるだけであれば、Web3のウォレットやブロックチェーンだけで十分そうな気もするが、まだ課題がある。

アイデンティティまでトークンに紐づけられてしまうWeb3の限界を超えるには?

Mr.モリスギ はい。しかし、だからといって、すべてWeb3になれば解決するのかというと、話はそう簡単ではありません。Web3では何をするにもトークン(仮想通貨)とアプリケーションが密接に紐づいているため、トークンとアイデンティティ(=ウォレット)が一体となったシステムは理想的ではないという新たな問題が生まれているんです。

安田 少し難しいですね。詳しく聞かせていただけますか?

Mr.モリスギ はい。現状のWeb3のアプリケーションはトークンベースのエコノミクスが前提となっていますが、「現実的にWebの世界がすべてトークンをベースとしたアプリケーションだけに移るのか?」というとそんなことはないでしょうと。

よって、アイデンティティは必ずトークンと結びつかなくてはいけないという前提を見直した方がいいのではないか、という議論がでているんです。トークンベースにするのはいいが、あくまでアイデンティティとトークンとはそれぞれ独立させるべきだ、というわけです。

安田 なるほど。実際にWeb2からWeb3に持っていきづらいアプリケーションやシステムというと、どのようなものがあるんでしょうか?

Mr.モリスギ そうですね、割と何でも該当するんですが例えば、Twitterで投稿をするときに「1投稿あたりのトランザクションコストが0.0002円です」みたいなことを言われたら、あまりやりたくなくなりますよね?

安田 確かにやりたくなくなりますね…。

Mr.モリスギ 例えばSNSの1投稿を行うときにNFTとして発行して、「いいね」をたくさんもらえたら、トークンもたくさんもらえるみたいなシステムがWeb3なら作れます。。

安田 なるほど、投げ銭的な。

Mr.モリスギ はい。ただ、全部がそういう風になってしまったらまた、これはこれで嫌じゃないですか、という話なんです。

安田 なるほど。Web上には必ずしもお金のやりとりを発生させないコミュニケーションもあって、それには適していないよね、ということでしょうか?

Mr.モリスギ そうですね。適したアプリケーションと適してないアプリケーションのどちらもあると思うんですが「本当に全部が全部そうなってもいいの?例えば、業務アプリケーション上でそういうことやるの?何でもかんでもトークンエコノミー化するの?」という…。

安田 あ〜、それは辛いですね。請求書1通発行する度に、というのは…。

Mr.モリスギ そこで、Web2とWeb3のどちらも選べる形にし、アイデンティティの部分だけブロックチェーンに上げようということで登場してきたのが「Web5」というわけなんです。

≪安田`s Memo≫

Web2の限界やWeb3の制約、どちらも乗り越えられるのがWeb5。

世界が注目!Web5の3要素とは?

Mr.モリスギ 前述したWeb5ですが、これはアメリカ・TBD社が先導しているプロジェクトで、アイデンティティとそれに紐づくデータを分散化し、データのポータビリティと正当性を検証できるようにするための仕組みを提唱しています。

安田 これまたなかなか難しそうです…。Web5もWeb3と同様、ブロックチェーンに基づく技術なんでしょうか?

Mr.モリスギ 厳密に言うとWeb5はブロックチェーンではないのですが、それに近しいものです。Web5には、①Decentralized Identifiers(DID)②Verifiable Credentials(VC)③Decentralized Web Nodes(DWN)という、主に3つの大きな要素があります。

安田 それぞれどういうものなんでしょうか?

Mr.モリスギ 簡単に言うと、それぞれ①IDとそれを②「正当」と認証する仕組み③IDと紐づくデータを保管・やりとりする場所のことです。①Decentralized Identifiers(DID)は、Web5におけるユーザーのIDです。ID自体はこれまでと同じですが、Web5ではそれが分散化されたネットワークの中で自動生成され、ユーザーが保有するものとされます。

安田 Googleなどのプラットフォームが独占することを良しとしないんですね。

Mr.モリスギ はい。現在のITセキュリティにおいては、信頼性証明機関が暗号鍵などに関わっていますが、Web5にそのような機関や中央集権的な機構は存在しません。ネットワークの中のどこでも発見可能なDIDは、どんなプラットフォームでも一貫して利用できるユーザーIDということになります。

②Verifiable Credentials(VC)は、DIDが正当なものかどうかを識別するための認証の仕組みです。例えば、ユーザーが保有する銀行口座が自分のものであることを証明するときのことを考えてみましょう。各ユーザーと銀行がDIDと公開鍵による署名をセットで提供することにより、「このID・ユーザーと口座は合っているね」といった風に、第三者から正当性の検証を可能にするために利用されます。

③Decentralized Web Nodes(DWN)は、Webで公開されている個人データを保管し、メッセージをやりとりする場所です。①と②を使って「このIDはこの人のもの」と照合することで、データを読み出したり書き出したりすることができます。

これらを使えば、例えば、音楽のプレイリスト、ソーシャルグラフなどがプラットフォームを超えて提供できるようになります。

安田 つまり、SpotifyのプレイリストをそのままApple Musicに持っていけるようになるというわけですか?それは画期的ですね!

Mr.モリスギ はい。Web5ではIDとデータは別々の扱いになり、ウォレットでがちゃんと繋ぐと、まず前述の②VCによって「あなたはモリスギさんですね」とわかり、③DWNで当該データを持ってきてSpotifyのプレイリストがApple Musicでも聴けるようになる、という仕組みです。このように、どんなデータもプラットフォームを超えて、自在に持ち運びできるユーザー体験になります。

安田 ありがとうございます、よくわかりました。一方で先ほど、Web3をめぐっては「アイデンティティは必ずトークンと結びつかなくてはいけないという前提を見直した方がいいのではないか」という議論があるとも教えていただきました。このアイデンティティにまつわる問題は、Web5だとどのように解決されるんでしょうか?

Mr.モリスギ それに関してWeb5は、共通のアイデンティティレイヤーを規定し、現在のインターネット(Web2 + Web3)に持ち込むことで、問題解決を図ろうとしています。Web3では、アイデンティティレイヤーはトークンと分離できていませんでしたが、Web5ではトークンとは分けた使い方が可能になります。選択的に利用できるということですね。

なので、Web2.0のプラットフォームにDID・VCの概念を持ち込み、アイデンティティレイヤーのみ分散化して、ポータビリティやユーザーデータの正当性を証明するという使い方もありえますし、反対にWeb3でアイデンティティレイヤーのみをWeb5化するという使い方も考えられるんです。

安田 すごいですね!そうすると、アイデンティティレイヤーはWeb5形式にして、中身のデータだけは特定プラットフォームに依存するということも可能なんでしょうか?

Mr.モリスギ そうですね。このようにWeb2とWeb3それぞれの弱いところを補完し合い汎用的/包括的に対応するアイデンティティレイヤーとしてWeb5が存在している形です。アイデンティティとトークン、データを使い分けることで、ユーザーに取っては一番メリットがあって便利な体験になるのではないかと思います。

安田 なるほど。

≪安田`s Memo≫

Web2とWeb3それぞれの弱点を補完し合うアイデンティティレイヤーとしてのWeb5に注目が集まっている。

―次回の【海外Hot Info】では、「ブロックチェーンは全能か?Web3+Web5による次世代インターネットアイデンティティ【海外Hot Info】vol.39」について、引き続き森杉さんにお話を伺います。次回もぜひお楽しみに!

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